研究紀要第77号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -122/137page
認め励ましながら校内行事などに積極的に参加さ せ,自信や充実感を持たせる。
《3》 部活動など,目的を持って努力すること の大切さや責任感を育てる。
(2)家族に対して
《1》 学校での本人の良いところを知らせ,家 族の気持ちを安定させる。
《2》 家族関係を見直させ,温かい雰囲気を作 らせる。
(3)学校で
学年内での共通理解を図る。特に部活動顧問とは,役割を分担して指導援助に当たる。
7.予防援助(指導援助)の経過
〔積極的なラボールづくり〕
・ 4月下旬 校内陸上大会にB男が何も希望し ないのが気になり,放課後,短距離走に出てみな いかと話しかけた。2日後,B男は担任に出場し たいと申し出た。
〔行事への参加とB男の努力〕
・数日後,相談室でB男に運動や家庭,友達の ことについて聞いた。担任の言葉かけによって出 場する気になったこと,家は面白くないことが分 かった。担任は「力があるのだから全力を出し切 れば1位になれる」と励まし,クラス全員で応援 することを約束した。B男の目が輝いた。翌日か ら,朝早く起きてトレーニングし,大会では見事 1位になった。担任がクラスでB男の努力を全員 に話すと,恥ずかしそうに聞いていた。
〔家族とのラボール形成〕
・ 5月下旬 家庭訪問。両親に対して,B男の 大会での頑張りと努力を褒めた。成績こそ下がっ ているが,部活動や日常生活でのB男の長所を繰 り返し話した。また,姉の「家出」事件には直接 触れず,家族の温かい受容的な雰囲気が,子供の 能力を伸ばし育てることに気づかせた。
・ 7月上旬 PTAの懇談会で母親は,家庭で のB男の眼が暗く反抗的だと語った。担任は,体 育館に母親を案内し,バレーボール部の練習風景 を見学させた。部活動顧問の熱心な指導もあって 副部長に選ばれたB男は,汗まみれになってポー ルを追っていた。「一つのことに打ち込める人間 がB男君です。勉強のことも,そのうちきっと意 欲が出てくるはずです。信じてあげてください。 毎日一つだけでいいですからB男君を褒めてくだ さい」担任がそう言うと,母親はまだ半信半疑の 面もちだった。
〔家族関係の変化と新しい意欲〕
・ 9月 B男は担任に,父親が部活動をやめて 勉強に専念しろと迫っていることを相談した。担 任がB男自身はどうしたいのか尋ねると「部活動 を続け,勉強もしたい」という。それなら,両親 に自分の気持ちを素直に伝えるように勤めた。
・10月 突然父親が来校し,最近B男が毎日勉 強をするようになったことを話し,感謝した。B 男は,A高を進学目標に決め,部活動で疲れて眠 くても毎晩机に向かっているという。「最近,授 業中の態度が意欲的になっています。ご両親でB 男君に一生懸命かかわったからでしょう。本当に ご両親に感謝します」そう答えると,父親の顔に 満面の笑みが広がっていった。
8.考察
この事例は,本人の得意なもの,熱中できるものを生かしながら,家族のかかわりに変化を与え問題行動を誘発する状況を変えていこうとしたものである。要点として次のことが言えよう。
(1)本人の問題点を日常観察,家庭からの情報, 心理検査等から早期にとらえた。
(2)前担任や指導要録などから必要な資料を収 集し,背景を分析しながら指導援助を進めた。
(3)直接問題点を改めさせようとせず,本人の 得意なものや,部活動を通して指導援助すること によって自信を持たせ,成長を図った。
(4)養育に自信を失っている両親の気持ちを安 定させ,温かく受容的な雰囲気を作らせた。
(5)部活動顧問と連携を図ることで,本人の学 校生活を充実させ,新たな意欲を引き立てた。