研究紀要第77号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -124/137page

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6.予防仮説(指導仮説)

 本人の学級内での友人関係を改善するために,担任が中心になって指導援助に当たる。

(1)本人に対して

 さりげない声かけを通して,情緒の安定を図り,生活への意欲や目的を持たせる。また,友人を少しずつ接近させながら集団生活の楽しさを体験させる。

(2)家族に対して

  《1》 家庭でのS子への指示,命令を控え,本 人の判断にゆだねさせる。
  《2》 本人の気持ちを理解し,学習や進路につ いて穏やかに話し合う雰囲気を作ってもらう。

(3)学年教師に対して

 あいさつやさりげないかかわりを心がけ,良い点があったら,小さなことでも認めてくれるよう学年に働きかける。

7.予防援助(指導援助)の経過

[機会を見てのさりげない話しかけ]

 ・ 「疲れているようだね……」と話かけた。進 路について心配しているようなので,「焦らず一 緒に考えて行こう」と励ました。 

・ 「日直ご苦労さん,教室,きれいに整理整頓 されていたよ……」と日直の労をねぎらうと,S 子はニコッとほほえんだ。

[家庭との連携]

・ 母親との電話連絡の際,進路に対する母親の 不安やいらだちを知る。その気持ちを十分受容し, 「S子も悩んでいるので,今はいろんな指示を控 えて見守っては……」と提案した。 

・個人懇談のおり,母親の努力を支えた。今後, S子が自力で進路の決断ができるように,父親を 交えて穏やかに話し合うことの必要性を話した。

[本人へのかかわり]

・ 昼休み,担任は努めて教室にいて,生徒たち の生活を観察しながら,S子を見守った。

・教室に独りでいるS子の話相手になってやれ ないかと2〜3人の女子生徒に,担任は声をかけて みた。「そんないきなり言われたって‥‥‥」「話 相手でなくてもいいから誘ったり,声をかけたり してくれないか‥‥‥」担任の意をくんで,特別教 室への移動のとき誘ってくれたのをきっかけにS 子は行動をともにするようになった。 

・誘ってくれた女子と同じ学習班に,S子を入 れてグループ活動をさせた。少しずつではあるが 意欲を示し,進路等についても考えを述べるよう になってきた。 

・学活終了後,逃げるように帰っていたS子が, 少しずつ教室に残られるようになってきた。 

・遅刻すれすれの登校状況はすっかり改善され, 昼休みなどトランプを楽しむ姿が見られ,生活へ の意欲が高まっていった。

[学年教師のかかわり]

 ・学年会の共通理解を受けて,担任及び教科担 任は,S子を含めた数名の生徒に努めて声をかけ, 自然な形で励ますことをした。

8.考察

 S子が不登校に至らなかったのは,担任が気づ きを深め,本人の情緒の安定に努めたことはもち ろん,本人を取り巻く環境の調整によって,クラ ス内の人間的ふれあいを図れたことによるものと 思われる。以下,本事例における指導援助の要点 をまとめてみる。

(1)担任が,S子の気持ちを受け入れ,さりげ ない話しかけや励ましに努めたことにより,本人 の情緒の安定が図られた。 
(2)友人を求めながら積極的に友人関係が作れ ないS子に,級友を近づけたことで,自然な形で の対人適応が図られた。 
(3)母親のS子への心配を受容することによっ て,家族で穏やかな話し合いを持つ余裕が生まれ, 本人の進路に対する自主性が養われていった。
(4)学年会での「さりげなく,自然に」という 共通理解のもとに,S子へのかかわりが深められ たことは,本人の励みになって行った。


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