研究紀要第77号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -127/137page

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事例5

「暴力」が予測される高校生への予防的な指導援助の事例

1.予測した問題行動    暴力

2.対象    高等学校1年 男子(A男)

3.問題行動予測の動機

・ 日常の学習活動は一応まじめにやっている。 時に教師の言葉じりをとらえ,つっかかるような ところがある。 

・学校の規則に不満を漏らしたり,親友とさ細 なことで口論することがある。 

・ 気の弱い級友を,だれかれとなくやり込める 傾向がある。

4.資料

 A男の反抗的態度の背景を探るため,既存の資 料や中学校の担任から資料の収集をした。

・ 学業成績(入学時)40人中18番  得意教科は国語,美術。 
・ 中学校の指導要録から

 身体が大きく,頑強でサッカー部で活躍する。 自己顕示性が強くわがままな面もある。学習面で は更に伸びる素質を持っている。

・ YG性格検査(4月に担任が実施)

 劣等感,抑うつ感が強く,協調性に乏しく衝動的である。強気な自尊心と対人不信感が混在する不安定な状態にある。

・家族システム

家族システム

 姉は一家の母親代わりになっ ており,A男の将来について心配している。

5.予測診断(診断)

 母親は病弱でA男が小4の時死別した。父親の 養育態度は厳格かつ放任的だった。両親からの愛 情が薄く成長したため,認められることや優しく してもらうことへの願望が強い。しかし素直に感 情を表現できず,反抗的な態度をとるため周囲か ら厳しくしっ責され,ますます心を閉ざし人間不 信の念を強めた。また,たびたび暴力を振るう父 の姿がA男の心に影響を与えている。そんな中で, 姉の献身的で受容的なかかわりがA男の支えにな っている。

 高校入学後,さ細なことで友人とトラブルを起 こしたり,注意をする教師に反発をするようにも なった。このような状況から,適切な指導援助が なされないならば,対友人,対教師「暴力」にま で発展することが予測される。

6.予防仮説(指導仮説)

 担任が中心にかかわり,父親的役割も担う。

(1)本人に対して

 《1》 クラス内で役割を与え,担任との接触の 機会を多くもたせ,ラポールの形成を図る。   
 《2》 積極的に長所を取り上げ認めながらも, 自己中心的な行動には厳しく対処し,規範性を高める。   
 《3》 具体的な目標を与え,それに向かって努 力させながら自立心を育てる。

(2)家族に対して

 《1》 父親としての自覚を促し,A男の成長へ の関心を高める。   
 《2》 姉の苦労を共感的に理解し,ともにA男 を支える。

(3)学絞で

教科担任と共通理解を図る。


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