研究紀要第77号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -128/137page
7.予防援助(指導援助)の経過
予防援助は,1年時より卒業時まで続いた。以 下は学年ごとにポイントとなった指導内容である。
〔1年時〕
・ 実習準備係に任命し,朝と放課後必ず担任と 接触せざるを得ない状況をさりげなくつくり,ラ ポールが深まるような言葉かけを多くした。
・ 6月,プールの金網に向かって奇声とともに 竹刀を振り降ろす姿が見受けられた。先輩部員と 衝突し,サッカー部をやめたとのことであった。 A男の言い分を時間をかけて聴いた。
・ 担任との人間関係は良好であったが,教科担 任とは時々衝突した。そのつど,A男のむしゃく しゃした気持ちを受け入れ諭すとともに,努めて 時間をみつけては教科担任と会い情報交換をした。
・ 国家試験について興味を持っていると言うの で,目標を持つことの大切さを話したら,在学中 の目標を「各種資格取得」に設定した。
1年時……危険物取扱主任者
2年時……ガス溶接士,計算技術検定
3年時……二級ボイラー技士
・ 家庭訪問のおりには,父親と姉にA男の良さ や将来について話した。
≪1年時の反省≫
HRの係もやりとげ,危険物取扱主任者の 国家試験にも合格し,無欠席で,生活,成績 とも進境著しく,険しい表情は消えてきた。
≪2年時の目標≫
担任とのラポールを更に深めつつ,是々非 々の姿勢で接し,協調性や規範性を養う。
〔2年時〕
・ 月1回位のペースで大小のトラブルが見られ た。むしゃくしゃした時は,つい他人に当たりたくな るものであることを指導援助者の体験を通して話 した。A男のわがままに起因すると思われた時に は,相談室に呼んで毅然とした態度でしかった。
・ 家族ぐるみでつき合ってもらえる友人がA男 にでき,それが大きな励みとなった。高校生活に 入って始めてできた親友であり,A男の喜びは大 きかった。
≪2年時の反省≫
試験も苦労のすえ,二つとも合格し学業成績も良好であった。やればできるという自信が深まり,協調性や規範性も出てきた。担任以外の授業でも態度は良好になった。
≪3年時の目標≫
まだA男の心の奥深く存在している根本的 な人間不信を和らげたい。また,適切な進路 指導に当たりたい。
〔3年時〕
・ A男は就職希望だったが地域及び職種につい ては迷っていた。情報を提供しつつ,A男がじっ くり将来を考え決定するのを待った。
・ 夏休みの終わりころ,現在専攻している建築 を生かせる会社で,Y市に就職したいと話してき たが,Y市の企業からの求人はなかった。担任が 9月,10月と職業安定所回りをして,やっと二つ の会社をあっせんすることができた。11月には, A男の就職も内定し,また国家試験にも合格した。
≪3年時の反省≫
A男の就職について担任が真剣にかかわった ことが,A男の人間への信頼感をとり戻させた。
8.考察
この事例は,3年間クラス替えがなく,しかも 担任も持ち上がりで継続的な指導が可能であると いう条件を生かし,「父性」的にかかわった例で ある。要点として以下のことが言える。
(1)クラス内の重要な役割を与え,きめ細かな 指導を繰り返すことによって,責任感,規範性を 高め,クラス内に溶け込ませた。
(2)適切な目標を与え,努力させることで自立 心を育てた。
(3)教師自身が悩んだり,努力したりする一個 の人間であることを示し,人間への不信感を和らげた。 (4)父親の自覚を促し,将来を考えさせた。