研究紀要第77号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -131/137page
5.ラポールの形成 (1)本人とのラポールを形成する。
(2)家族とのラポールを形成する。
子供の問題点を確かめようと,性急に本人や家族から資料を収集することは,相手に不安や不信感を抱かせる心配がある。問題の本質を探り,見極めていくには,ラポールを十分形成して相手の心に近寄ることが大切である。
そして,ラポールが形成されることにより,本 人や家族は指導援助者に対して信頼感,安心感を 抱き,助言を素直に受け入れるなど,予防援助が 実施しやすくなるばかりか,ラポール形成が子供 の情緒を安定させるなどして,直接,問題点の改 善に有効に働くものと考えられる。
6.資料収集,予測診断,予防仮説 〔資料収集〕
(1)資料収集の計画を立てる。
(2)子供の問題点と関連があると思われる資料を収集する。〔予測診断(診断)〕
(1)素因の形成と誘因とのかかわりを明らかにして問題行動発生の可能性を予測する。
(2)問題の発生を抑制する要因(抑制要因) を見つける。〔予防仮説(指導仮説)〕
(1)素因や誘因を改善,解決,除去し,さらに抑制要因を強化するための見通しを持つ。
(2)本人,家族,学級などに対する具体的な予防仮説を立てる。資料収集とは,問題の輪郭を明確にし,予測診断をするために,観察や面接,検査等を通し,または既存の資料や情報などから,子供の問題点とその背景に関する資料を得ることである。その場合,あらかじめ計画を立てて収集することが望ましい。
予測診断とは,収集した資料から新たな問題となる点をとらえ,その関連を考え,やがて問題行動につながるであろうことを予測することである。そして,その一連の中で素因や誘因,形成要因や抑制要因を明らかにすることである。正確に予測診断することにより,適切な予防仮説が立てられるものと考える。
予防仮説とは,予測診断を基に,素因の改善や 解決,誘因の減弱や除去,抑制要因の強化などを 意図した具体的な予防援助の計画を立てることで ある。その場合,本人のみならず,家族や学級全 体に対しても仮説を立てて援助することが効果的 である。なぜなら,家庭環境や学級内の人間関係 などが,素因を形成する要因や問題行動発生の誘 因として大きくはたらくことを見逃せないからで ある。
7.本人への予防援助(指導援助) (1)ラポールを形成する。
(2)問題点への気づきを図る。
(3)問題行動につながる素因を改善,解決する。
(4)問題行動発生の抑制要因を強化する。
本人への予防援助は,問題行動につながる素因を改善,解決したり,抑制要因を強化して問題行動への増幅を食い止めたりするためのアプローチが基本である。
実際の対応に当たっては,本人の話をよく聴く,共感的に理解する,認め,褒め,励ますなどしながら,子供とのラポールを十分形成し,本人の情緒を安定させることが必要である。
また,問題点への気づきを図り,自己洞察を深めていく援助や自己抑制力を強め,自己解決ができるような援助が必要である。この場合,子供に不安や不信感を抱かせないよう,さりげなく援助していくことが大切である。