研究紀要第80号 「情報活用能力の定着と個性の伸長に関する研究 第2年次」 -067/135page
T 研究の趣旨
コンピュータの発達は,膨大な情報の収集,処理と新しい情報の創造を可能にし,人間の行動様式,思考形態に大きな質的転換をもたらしている。そして,今後これによる情報化は社会のあらゆる分野において一層広汎かつ深く浸透していき,21世紀においては「高度情報社会」が実現するであろうと考えられる。
文部省「情報化社会に対応する初等中等教育の在り方に関する調査研究協力者会議」(以降協力者会議という)は,教育課程審議会の審議の過程の中で,「初等中等教育においても,未来の高度情報社会に生きる児童生徒に必要な資質を養うとともに,情報手段の活用による学校教育の活性化を図るなど,情報化への対応を積極的に進める必要がある」との考えから,1.情報活用能力の育成(教育内容面),2.学習指導における情報手段の利用(教育方法面),3.情報手段を利用した教員の職務の支援,合理化の3つの面における参考資料(素案)を提示した。
科学技術教育部ではこの素案にかんがみ,「自己教育力の育成に関する研究」(S.60〜S.63)に引き続いて,昭和63年度より向こう2年間,「情報活用能力の育成」に関する研究を行うことにした。そして,この研究の基本的な視点を次のように考えた。
1 これからの社会に生きる者として,自己教育力はもとより,この源となる情報活用能力を十分身につけることは,人間本来の生き方の探求や社会の発展のための原動力になるものとして極めて重要である。
2 学校をはじめさまざまな教育機関において,情報活用能力の育成に本格的に取り組む必要がある。この推進に当たっては,特に情報化の光と影を明確に踏まえ,新しい情報手段がもつ人間の精神的,文化的発展の可能性を最大限に引き出す必要がある。
3 ニューメディアという概念と同様に,この高度情報社会という概念についての解釈はまちまちとなっている。このことから,学校現場で,情報機器をどのような場面でどのように使うか,また,どのように取り組めば情報活用に関する資質・能力を育成できるのか等を総合的に検討し科学的な裏付けをしていく必要がある。
本研究ではこれらの点を踏まえ,児童生徒の情報に関する基礎調査を基に情報活用能力育成のための基本的な考え方と育成プロセスを構想し,研究協力校における実践を通して情報活用能力育成の在り方を追究することにした。
II 研究の構想
1.情報活用能力とそのとらえ方
(1)情報活用能力の分析と育成要素の焦点化
前に述べた「協力者会議」の素案では,情報活用能力を「情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的な資質」と定義している。この定義のキーワードである「情報」,「情報手段」,「基礎的な資質」をどのようにとらえていくかは,今後の研究を進める上で極めて重要である。
そこで本研究では,「情報」を「情報とは,可能性の選択指定作用をともなうことがらの知らせ(林 雄二郎)」ととらえ,ことがらを「情報手段にのって伝えられる学習内容」(つまり学習情報)に限定した。更に「情報手段としては,ふだん学校で使われているメディアを取り上げ,特にエレクトロニクスを利用したメディア(パーソナルコンピュータ等)を重視することにした。また,「基礎的な資質」としては「情報の判断,選択,整理処理能力」,「情報の創造,伝達能力」,「情報化社会の特質,情報化の社会や人間に対する影響の理解」,「情報の重要性の認識,情報に対する責任感」,「情報科学の基礎及び情報手段の特徴の理解,基本的な操作能力」を取り上げた。