研究紀要第80号 「情報活用能力の定着と個性の伸長に関する研究 第2年次」 -068/135page
このことは,次のような理由による。
1 情報過多の状況において,情熱こ振り回され自己を見失うことなく,多くの情報の中から必要な情報を主体的に選び,内容を判断し,選んだ情報を整理し,適切な情報を引き出す能力,更に得た情報から新たな情報を作り出し,それを他へ伝達する能力の育成が必要である。
2 情報化社会の特質や情報化の進展がもたらす社会や人間に対する影響について,プライバシーや情報犯罪,VDT環境と健康の問題なども含め,その光と影の部分を総合的に理解させることが必要である。
3 個人の情報アクセス能力や情報発信能力が飛躍的に拡大することに対応して,個人が情報の被害者となるだけでなく加害者となるおそれもあることを十分に自覚した上で,自己の発信する情報が他の人々や社会に及ぼす影響を十分認識し,行動する態度や他人の創造した情報についての倫理感などを育成することが求められる。
4 情報化社会の科学的背景を理解するために必要な情報量,ディジタル・アナログ,制御等の基本的な概念やコンピュータをはじめとする多様な情報手段のそれぞれの特徴,役割,利用できる領域と限界などについて理解させるとともに情報手段を手軽に使いこなし,情報を自由に発信できる能力の基礎を育成するたあに,キー操作,ソフトウェアの活用などの情報手段の基本的な操作能力が求められる。
これらについては更に,情報の種類や情報量,児童・生徒をとりまく学習環境,あるいは情報の利用状況といった観点から実態を調査し,焦点化することとした。
(2)情報活用能力の育成
目標の設定
前に述べたように,「基礎的資質」は,これからの児童生徒にとって極めて重要となっており,育成に当たっては,「どの部分をどれだけどのように育成すべきか」を,発達段階に応じて十分に検討する必要がある。
本研究では,まず,最終到達目標を,来たるべき高度情報社会を想定して「高度情報社会に対応できる心豊かで創造的な人間の育成」においた。
次に,これを成立させる「情報の処理と創造力の形成」,「情報化社会の認識と情報モラルの確立」,「情報手段の理解と操作能力の習得」の3つの目標を設定し,これを上位目標とした。
更に,これらを構成する要素のうち,「収集」「選択」,「処理」,「創造」,「伝達」,「情報化社会の特質」,「情報化の進展がもたらす影響」,「情報の重要性」,「情報に対する責任」「情報科学の基礎」,「情報手段の特徴」,「情報手段の基本的操作」から,上位目標を支える12の要素を設定した。(図1)
これらの目標を具現化するための手だてや学習課題,評価などについては,児童生徒の生活経験や情報に関する実態調査等を踏まえながら検討を加えることとした。
図I 情報活用能力の育成目標