研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -113/135page
事例1
「不登校」が予測される小学5年生への予防的な指導援助
〜母親への気づきを図り,担任との信頼と協力を通して〜(指導援助者は学級担任,30歳,女性)
l 予測される問題行動 不登校
2 対 象 小学校5年生 女子(S子)
3 問題行動予測の動機
○周囲から厳しい批判を受けることがあり,グループ活動に入れず,仲間から取り残されている。
○4年生まで欠席が多く,5年になっても授業中に身体症状を訴えることがあった。
○学習意欲が乏しく,宿題なども提出しない。
4 予防援助の経過
(1)既存の資料から
1 指導要録・生徒指導個票等(4月)
○自分から進んでは行動せず,おとなしい。
○基礎的な学習内容が定着していないため,個別指導が必要である。(4年生時)
2 AAI学習適応性検査(5月)
○失敗などを自分の能力のせいにしてしまい,自分は何をしてもだめだと思うことがあり,常に劣等感を抱いている。
○肥満タイプであることを非常に気にしており,内向的になっている。
(2)一次予測診断 肥満や学習に劣等意識があり,自信欠如からクラスの中で内向的になり,孤立している。背景に,日常生活における強い不満感や情緒不安があるものと思われる。
軽度の身体症状があるが,現時点でほ深刻化していない。しかし,クラスの中で,わがままと受け取られることがあり,S子を責める児童もいる。
適切な指導援助がなされないならば,不適応状態が深刻化することが予測される。
(3)一次予防仮説
○休み時間などに気軽に声をかけ,楽しい会話をしながらラポールを深め,情緒の安定を図る。
○学級の「ふれ合いの時間」にみんなが一つになって活動することにより,互いに認め合い,助け合える雰囲気をつくり,S子を学級にとけ込ませる。
(4)経過 T
気になる身体症状
4月終わり,体育の授業の時間に,頭痛,腹痛を訴え,保健室で休んだ。
何となく気になっていると,養護教諭から「S子さん,朝食をとっていないようです。」という話があった。 その日の夕方,家庭訪問すると,母は,これから勤務先の飲食店に出かけるところだった。
担任「突然おじゃましてすみません。今日,S子さん,体育の時間に保健室で休んだのですが。給食の後は元気になったんですけど・・・朝ご飯を食べてこなかったようですが,どうですか?」
母親「あら,すみません。また,朝ご飯食べて行かなかったんですね。いえ,用意はしてあったんですけど・・・」
担任「ときどき,気分が悪くなるみたいですね。」
母親「ご心配かけてすみません。先生,S子,わがまましてませんか。自分勝手な・・・ だから,友達もいないようで・・・」
担任「だんだん,友達もできると思います。ところで,今,S子さんは?」
母親「あら,さっきまで家にいたんですが?」
その後は,組替えになった学級の様子とか,5年の学年行事のことなどを話し合った。
初めての面談ということで,母親に安心感を与えるように心がけてラポールを図っていった。