研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -114/135page

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 しかし,雑然とした部屋の様子やS子を責めるような母親の様子から,どれだけ真剣に考え,かかわってくれているのか,少し不安でもあった。
   学級にとけこむS子
 5月の初め,学級づくりの一環として,「ふれあいの時間」に,ゲームを取り入れた。
 「他己紹介」―輪になって隣同士で3分間話し合ってから,互いに紹介し合うゲーム。友達のE子の隣に席を選んだS子は,E子から「趣味は,マンガを描いたり,折り紙をすることです。保健係では,やさしく下級生のめんどうをみています」といった紹介をしてもらい,うれしそうだった。
 「人間知恵の輪」―6人一組になって必ず違う人の手を握る。そして,絡み合った手を解いて一つの輪にするというゲーム。初めは遠慮していたS子も,やがて,声を出しながら,友達とつないだ手の間をくぐったり,またいだりしていた。
 男女一緒ということで,しぶしぶやっている児童もいたが「おもしろかった。今度は僕がゲームを考えてくるから。」という声も聞かれた。この様子を見た担任は,S子のためにも,月に一度ぐらいは計画していきたいと考えた。
   不登校への心配
 5月26日,22才になるS子の長兄が死亡した。
誰よりも可愛がってくれていた長兄の死は,S子にとって大きな衝撃であり,悲しみであった。
 忌引の休みの後,下痢,腹痛等を理由に5日間休みが続いた。担任が家庭訪問をすると, 母親「具合は良くなったようです。息子が死んで,私も本当にショックでした。先生,S子は,慕っていた兄の死に対するショックが大きかったんです。でも,明日からは学校に行くと思います。」
 担任「これから,お母さん大変ですね。S子さんのことで何かありましたら,私に相談してください。」
 次の日,S子はがんばって登校した。しかし,表情は暗く,ほとんど話はしなかった。長兄の死をきっかけとする情緒不安によって,「不登校」に至るのではないかという心配があった。

(5)新たな資料から (6月)
 1 S子の生育歴
○父親は一年の大半,出稼ぎしており,家族との接触はほとんどない。
○母親は,夜間,飲食店勤務で,家事が手薄になり,S子の生活リズムは不規則であった。
○2人の兄とは年が離れているので,一人っ子のように育てられた。長男はよくめんどうを見てくれていた。
○家族システム・力動図
家族システム・力動図
 2 参観日の面談
○母親は幼児期から放任的な養育態度であり,最近,S子をしかることが多い。
○S子は朝起きが悪く,また,家庭学習を全くしない。最近,親への口答えも増えてきた。
 3 ソシオメトリック・テスト(男22,女19)
○相互選択(女2) 相互排斥(男4)
 被選択 3(女3) 被排斥8(男6,女2)

(6)二次予測診断
 新たな資料を含めて,一次予測診断を次のように補足修正した。
 父親が不在がちな中で,母親はS子をかわいがって育てたが,その養育態度は,甘やかしと放任と気まぐれなしっ責の混じり合ったものであった。そのため,S子の生活態度には,わがままさと甘え,情緒的な不安と内向性とが見られる。
 また,家庭での学習習慣が全く図られなかったため,基礎的な学力に乏しく,寂しさと食事の不規則さによる間食のため肥満気味である。これらがS子の劣等感や自信のなさとなり,学級内での孤立化や男子のからかいの原因になっている。
 突然の兄の死に衝撃を受け,情緒的に不安定な状態になっていることもあり,もし,適切な予防

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