研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -115/135page

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援助がなされないならば,「不登校」に陥ることが予測される。

(7)二次予防仮説
 学校と家庭がS子に対して温かく,思いやりのあるはたらきかけをし,情緒の安定を図る。
○S子に責任を持たせ,進んで係の仕事ができるような場を与え,成し遂げた喜びや学級での存在感を持たせる。また,折りにふれて,認めたりほめたりしながら自信をつけさせる。さらに,良い人間関係ができるよう,席替えなどにも配慮する。
○母親の協力によって,食事の不規則さや家庭学習環境の乱れを改善していくとともに,手伝いなどを通して家族の一員としてのS子の自覚を深めさせる。
○母親と担任との信頼関係を深めながら,本人のよいところ,がんばっているところをさまざまな機会に認め,話し合うことによって,学校と家庭の両面から指導援助していく。

(8)経過 II
   母親の気づきと転職
 6月12日,兄の死以来,S子はどこか活気が感じられなかった。家庭での生活の様子が気になり,母親を訪ねた。
 担任「最近,S子さん,お家でいかがですか?」
 母親「ええ,だいぶ落ち着いて釆ました。私も,ようやく息子の葬式も終わって,ほっとしています。」
 担任「本当に大変でしたね。」
 母親「先生,実は私,息子の死以来,ずっと店を休んでいたんですが,これを機会に仕事を変えようと考えたんです。S子にも,ずいぶん,寂しい思いをさせました。死んだ息子のためにも,せめて,次男とS子を立派に育てようと思うんです。」
 担任は,母親の気持ちに共感し,これからのS子へのかかわりを話し合った。規則正しい生活,手伝い,そして勉強していくために・・・
 『少しずつ努力していくことが,やがて,大きな自信になる。』と話すと,母親はうなずいた。
 この時の母親の子どもたちへの気づきが,S子の健康的な生活を築いていくきっかけとなっていった。2週間後,母親は夜の勤務から内職へと職を変えた。
   席替えによる配慮
 6月22日,ソシオメトリック・テストのデータをもとに席替えを行った。S子と相互選択しているE子とM子の近くにS子の席を置き,さらに,やさしいK男を隣の席にした。K男には「S子さんは嫌がらせを受けるようなので,きみと組むようにさせたのよ。きみは優しいし,学級のことをよく考えてくれる。S子さんをよろしくね。」と頼んだ。
   係活動に対する意欲
 7月初め,児童会各種委員会があった。S子はE子と共に保健委員会に所属していた。
 委員会での仕事が終って,教室に戻ってきた。担任が「ごくろうさま」と声をかけると,E子とS子は担任のところに近づいて来て,話しかけた。
 E子「先生,このごろね,トイレットペーパーや手洗い場の使い方が,悪くなっているんです。」
 担任「そうなの。ぜひ,みんなにお話しなければいけないね。」
 E子「はい,明日の朝,言っていいですか。」
 担任「お願いね。でも,守ってもらうための何かいい工夫はないかしら。」
 S子「先生,ポスター作ってみようよ。」
 担任「なるほど,それはいいアイデアね。」
 S子にとって,係としての仕事にこのような意欲をみせたのは,初めてのことだった。
 次の日の朝,S子は,家で描いてきたポスターをみんなの方に向けながら,「守ってもらいたいこと」を二つ話した。
 周りから「そうよ。すごくきたないんだ。」と,S子を支持する言葉が,たくさん聞かれた。S子は,責任を果たした満足感を味わっていた。
   親子のふれあい
 夏休みに家庭訪問をすると,一学期はプールに入るのをいやがっていたS子が,母親に連れられて町のプールに行くようになってから,毎日,泳ぐようになっていた。S子の肌は真っ黒に日焼け

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