研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -116/135page

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して,とても明るく,たくましく見えた。
 9月11日の校内水泳大会では,「25mクロール」を泳ぎきった。学級全員が拍手すると,S子ははずかしそうにしながらも,うれしそうに手をあげてこたえた。担任は,さっそく,S子のがんばりを母親に伝えた。
 担任「S子さんがんばりましたよ。お母さんの『S子ガンバレ』という声援が届いたんですよ。」
 母親「いいえ,先生の指導とS子の努力です。夏休みに毎日,プールに行ってましたから。私もつい一緒に泳ぎました。そしたら,あの子ったら,『お母さんと一緒だと楽しい』なんて言って・・・勉強の方もがんばって欲しいです。」
 担任「S子さんは見違えるように変わってきましたよ。宿題も忘れずにやって来るようになったんですよ。大丈夫です。S子さんをもっともっと信じたいですね。」
 母親は,何度もうなずいていた。
   積極的になったS子
 水泳でのがんばりは学習面にも現れてきた。苦手の算数の授業でも挙手するようになった。答えがまちがっても悪びれず,自信が感じられた。かつての劣等意識は薄れ,積極的なS子になっていた。さらに,11月下旬のマラソン大会を目指し,毎日,放課後,4〜5人の友達と練習を続けている。11月20日,「私のうれしかったこと」と題した作文で,S子は次のように書いた。
 わたしの家は,お父さんが遠いところで働いているので,お母さんと兄とわたしの3人です。わたしのお母さんは内職で忙しそうなので,時々,わたしも台所でお母さんの手伝いをします。すると,お母さんは「助かるね」と言ってくれます。ほめられると,ついつい「あしたも,手伝ってあげよう」と思います。勉強も−緒に見てくれるので,お母さんが大好きです。
 私の学級は,明るくて元気な人がたくさんいます。私は,初めは,いやがらせをする人がいたので,この学級がいやでした。でも,この頃は,どうしてかこの学級が好きになってきました。先生がいろいろなゲームをしてくれるので,みんなが仲良くなったのだと思います。
 水泳で,わたしががんばった時,あんなにほめてもらえたなんて,生まれて初めてでした。とてもうれしかったです。


5 考  察

 この事例においては,当初,「集団不適応」を予測して本人・学級へのかかわりをより意図的に行った。しかし,長兄の死がきっかけとなって「不登校」に陥ることが予測された。そのため,学級でのかかわりを強化し,母親と担任との信頼と協力による積極的なかかわりから,「不登校」を未然に防いだものである。
 指導援助の過程で一次予測診断をさらに フィードバック して,二次予測診断をしたことは,適切な予防援助をする上で有効であった。なお,具体的な変容として,次のことが上げられる。
(1)S子の変容
 母親と担任の 「S子の気持ちを理解し.温かくかかわっていこう」という姿勢 は,S子にとって,情緒の安定を図る上で,大きな支えになったと言えよう。さらに,係の仕事を責任持って成し遂げた 成就感 と,周りから認められることによって得た 存在感 と自分への 自信 が問題行動の発生を抑制する大きな要因となった。
(2)学級の変容
 「ふれあいの時間」を通した学級での人間関係づくりから, 相互支持的な雰囲気 が生まれ,互いに認め合い助け合える関係ができた。
(3)家庭の変容
 担任の 家庭訪問における適切な指導援助 は,親子のふれあいや生活リズムの改善につながり,母親のS子に対する 気づき を深めた。こうした母親の意識の変化は,S子の勉強を見てやる姿や一緒に水泳をする姿にも現れている。

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