研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -118/135page
しさを感じるといった,複雑な気持ちであった。
現在,やさしい祖母の存在と,好きな野球へエネルギーを向けていることから,問題は顕在化していないが,適切な指導援助がなされないならば「不良交友」などの問題が予測される。
5 予防仮説
本人の持つ高いエネルギーを,部活動だけでなく,学級へも向けさせることによって,集団での存在感を高めるように指導援助する。
【学級での予防援助】
○「学級での活動の場」を与え,担任がK男とともに努力する姿勢を見せることによって,学級の一員としての自覚を持たせる。
○「団結する学級づくり」を心がけ,雰囲気を明るくし,K男にとっても魅力ある学級にする。
【部活動での予防援助】
○部活動顧問との連携を強化し,チームワークの大切さや,練習を通した耐性などをはぐくむ。
【家庭(母親を中心として)での予防援助】
○母親とのラポールを形成し,母親がK男の良い点を認めて,意欲づけを図るような言動ができるように援助する。
6 予防援助の過程
学級担任は,前年度にはK男の教科担当だったため,ある程度の情報や予備知識はあった。
そのため,前学級担任との話や既存の資料,心理検査などの情報収集と並行して,まず,必要と思われる「本人とのラポール形成」から予防援助を開始した。
[4月]ラポール形成と学級での活動の場の設定
新学級編成の発表後,教室前の廊下で,K男に声をかけてみた。
担任「K男君,よろしくな!」
K男「先生のクラスだったんですね・・・」
担任「イヤだったのかな?」
K男「いや,ちょっと・・・。バカやってはいられないかなと思って・・・」
担任「いろいろバカをやってみたい?」
K男「そういうわけではないけど・・・。授業でしか先生のこと分からなかったけど,厳しいんじゃないかと思って・・・」
K男にとって,厳しい理科担当の先生というイメージしかないのは分かるが,意外にも,素直な面があることを伺うことができた。
さしあたって,K男の目が部活動だけに向いている状態を改善するため,学級での活動の場を与えることにした。
担任「K男君は野球の守備がうまいんだってね。もっともスポーツ万能らしいけど・・・」
K男「いや−。でも野球だけは自信あるんだ。」
担任「学級も校内陸上大会では優勝をねらいたいね。そのためにも体育委員やってくれないかな? 推薦はM男君がしてくれるからね。」
K男「えーっ! おれが?」
担任「適任だと思うけどな?」
しぶっていたが,翌日にはK男は快諾し,予定どおりM男たちの推薦で体育委員に選出された。
放課後,教室で各係の打ち合わせをした。
N子「ロッカーの名札貼りはどうしますか?」
担任「急がなくちゃなあ。君の係でやる?」
N子「私は部活動の顔合わせの日だし・・・」
担任「K男君は係が違うしなあ・・・」
K男「じゃあ,おれ暇だし,やるっきゃないか。」
結局,担当係ではないK男が,一人で慣れないゴム印を押し,ロッカーと下足置場に名札を貼った。翌日,学級でそのことを全員に紹介すると,K男は気恥ずかしいような表情をしていた。
しかし,各教科担任の話では,やる気のない授業態度には変化がなかった。
[5月]学級での存在感を高揚
学級の雰囲気を改善するための資料収集と,K男自身の性格傾向を知りたいという二つの理由から,全員にYG性格検査を実施した。
校内陸上大会を二週間後に控えたある日,K男は,学級の種目別出場選手を話し合いの中心となって決定した。自分はみんなが嫌がるハードル走に