研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -119/135page

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出場することにした。大会当日は,同じ野球部で隣の学級のAに負け,二位に終わった。
K男「A君と同じ組で走るとは思っても見なかった。でも,A君予想以上に強いなあ。」
担任「君もよくがんばったよなあ。それにしてもあのA君,コツコツと練習して自分の存在をみんなに知らせたんだから偉いよ。」
K男「うん」
担任「A君は,2年になってからは授業態度も違うようだよ。よく宿題忘れるやつ(K男のこと)がどこかにいるけど・・・」
K男「どこかにって,ここにいるよ。」(笑い)
担任「そういうことも負けないでやろうな。」
 できるだけラポールを意識した話しかけをしているが,この時期も各教科担任から入る情報には変化がなかった。
 しかし,学級の生徒たちからの信頼は増し,K男も学級での活動に意欲的に取り組むようになった。『係活動をする』→『信頼を増す』→『意欲が出る』といったサイクルが続くようになりつつあった。「K男,変わったみたい。」との声も,学級内で聞かれるようになった。
 母親に,最近のK男のことを伝えようと家庭訪問をした。しかし,母親は『K男が母親に対しては,自分から声をかけようとしないこと,父親が1回の航海で3カ月も留守をしてしまうこと』などのぐちをこぼすだけで,K男を家庭内で認めるような言葉は聞かれなかった。
 また,K男自身も,担任に母親のことを話すとき,「あいつ」と呼ぶなど,まだまだ課題は多かった。
[6月]自分自身を見つめさせる
 学級での意欲も高まり,担任としても安心かなと思うようになってきたある日,部活動の練習で校外を走っていたK男は,『研究用牧草』を部員とともに寝転んでつぶしてしまった。牧場主からの連絡を受けて,部活動顧問,保護者,部員たちで謝罪に行ったが,研究用ということで,予想以上に深刻なことであった。
 帰ってきたK男に話を聞いたところ,「2年生はみんな,あの草をただの雑草と思っていた。」ことが分かった。
K男「A,B,C先輩たちが前にやっておもしろいと言うし・・・」
担任「君が尊敬する野球部の先輩たちだね?」
K男「いろいろ悪いことやっているんで,今は好きでも何でもない・・・」
担任「悪いことする先輩は尊敬できない・・・」
K男「・・・うん・・・」
担任「そういう判断ができるということはすばらしいと思う。本当に。でも,だからこそ今度のことは君らしくなくて,残念だよな。」
K男「牧場の人,お母さんの知っている人だったから,お母さんに恥ずかしいことさせちゃって・・・」
 「あいつ」と言わずに,「お母さん」と言うところに,K男の反省する気持ちが表われてた。
担任「よし,元気だせよ。先輩との付き合い方が判断できるんだ。人に迷惑かけられないという気持ち,大事にしてがんばろうな。」
 この件そのものは残念なことであったが,K男にとっては,自分自身を見つめるための,良い機会であった。
[7月]母親の変容
 夏休みに学級の希望者だけで学習会をすることになった。初日,女子が圧倒的に多く,男子はK男が呼びかけた5人だけであった。恥ずかしくて入ってこれないK男に「遠慮しないで入れよ。」と声をかけてみたところ,「やっぱり入りにくいよなあ。F君の家に行ってやってくるから,問題用紙だけもらえないかなあ。」と言う。「OK!やる気だして,来ただけでも偉かったぞ。」というと,実に明るい笑顔を見せてくれた。
 数日後,母親が突然来校した。『K男と一緒の時間が短かかったが,これからは6時前には帰れることや,K男が大人になり,しかることも少なくなったこと』などを,笑いながら話してくれ,K男の良さを素直に認めようとしていた。
 母親は何度も「K男のこと,よろしく。」と繰り返していた。K男と母親との間に,信頼感が芽生

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