研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -120/135page
え始めていることが感じられた。
翌日の午後,野球部練習中のK男を訪ね,母親の心情を話した。K男はほほえみながら「おれ,普通にやってるんですよ。」とうれしそうであった。
[8月]部活動への積極的参加を奨励
新副部長に選ばれたK男を時々激励した。夏休み中も厳しい練習をよくがんばり,2学期の始業式の日から,スムーズな学校生括を開始した。
[9月]学級での団結力を高める指導
校内合唱祭の練習委員の選出で,K男は嫌いなはずのM子(ソシオメトリックテストで相互排斥)を推薦し,しぶる男子を引きつれて,率先して練習にも参加した。その結果,学年優勝を果たし,「学級は一つ」という感動を全員で味わうことができた。
[10月]K男と学級の結びつきの強化
K男にとって,大きな意味を持つできごとがあった。副部長として出場した郡の中体連新人野球大会で優勝をしたことである。
その日,帰りの学級の時間が終わっても,担任の呼びかけの結果,学級全員がK男の帰校を待っていた。K男は意外に落ち着いた態度で学級に入り,級友の大きな拍手を受けたが,その表情には一つのことをやり遂げたという,自信と満足感が漂っていた。また,担任としての指導があったとはいえ,このような学級全体の温かさは,K男への指導援助の過程を通してできたものであることを思うと,逆にK男に感謝したい気持ちでもあった。K男にとっても,学級にとっても,新人戦での野球部優勝は大きなできごとであった。
そして,この変容を客観的な方法で確認したい意味から,第二回のYG性格検査を実施した。
[YG性格検査を通して見たK男の変容」
明らかに,G因子得点(活動性)が向上し,D,C,T,Nといった情緒不安定傾向を示す因子得点は減少している。同じB′型ではあるが,情緒が安定する傾向に変容してきている。学級の係活動を中心に,活動的になりつつあるK男の姿と,よく一致する。
7 考 察
これは「不良交友」を予測したK男に対して,学級の凝集力を高めることを中心にかかわり,予防することに成功した事例である。
かかわりと変容の関係は,以下のようにまとめることができる。
【本人と学級の関係】 担任とのかかわりの中で,学級での存在感を高めつつある。 体育委員という活動の場を得て ,学級での信頼が増加したことと, 学校行事で学級が団結できたこと は,特に大きな力となった。部活動と学級へのエネルギーのバランスがうまく調和を見せ始めたものと解釈できる。また, お互いの個性を深め.認め合う学級づくりを意識してきた ことで,学級そのものが『K男に対しての 抑制要因 』として働くように変容した。学級がまとまりつつあり,K男自身も学級を軽視せず,係活動を通して貢献しようとするようになった。
【部活動】 新人戦で優勝できたことは,学級とは無縁のことではなく, 学級で受け入れられるという存在感や充実感が得られたこと と深い関係がある。K男の変容が学級にも影響を与え,それがまた,K男の部活動への参加態度へも変容を与えるという 波及効果 が見られる。
【家庭】 家庭では横柄な言動が少なくなりつつある。祖母との関係は以前と同じ良い状態が続いている。また,K男の態度がなげやりに見え,しっ責が多かった母親が,家庭内で,K男の 良い点を認めようとする姿 を見せるようになった。K男自身の変容が,母親のK男を見る目,姿勢を変えたものと考えられる。