研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -122/135page
2 ソシオメトリックテスト(5月末)から
A男 相互選択 2(B男,C男のみ) 被排斥 8
被排斥の理由として上げられていたものは「ツッパリ,こわい,言葉づかいが悪い」などであった。B男は被選択が7人で人気がある。C男は「周辺児」である。
5 予測診断
A男に対して父親は,積極的拒否傾向が強く,しばしば暴力をふるった。そのため,A男も子供のころから粗暴で,同級生などに対して暴力的な言動が多かった。また,祖母の溺愛はA男のわがままを助長した。母親はA男を教え諭すよう育てたため,A男は心優しく純朴な一面をもっている。
B男は,祖母に溺愛され甘やかされて育ったため,わがままであり自己中心的である。しかし,素直で人なつっこい一面もある。
C男は,一人っ子として過保護,過干渉的に育てられたため,神経質で内向的である。また,性格の異なるA男,B男にひかれている。
学校生活への不満感などから,3人はグループをつくり休み時間を中心に活動している。3人とも学習意欲に乏しく,反抗的である。中でもA男は3人のリーダーであり鬱屈(うっくつ)した攻撃性を秘めている。
現時点で,3人とも放課後部活動を熱心にやっており,問題行動は顕在化していないが,適切な指導援助がなされないならば,A男を中心とする「集団暴力」などの問題行動が起きることが予測される。
6 予防仮説
この3人の中で最も不満感が強く,問題を起こす可能性があるのはA男である。従ってA男を中心とする指導援助が必要であると考えられる。
(1)共通したアプローチ
1 担任が3人にチャンス相談をしてかかわることにより,ラポールを深める。
2 学級の係活動を通して,存在感を高めるとともに,責任感を育てる。それが同時に,学級全体の士気に結びつくよう配慮する。
3 「学習日記」の活用を図り,基本的な学力を身につけさせて自信をもたせる。
4 家庭訪問や,定期懇談で,親とのラポールを深め,問題への気づきと早期対応に努める。
(2)個別的なアプローチ
1 A男に対しては,鬱屈した攻撃性を部活動で発散させ,目的に向う充実感の中で人間的な成長を図る。また,A男が本気になって取り組む姿勢は,B男,C男に良い影響となって反映していくことを,自覚させる。
2 B男に対しては,係活動などで認めて褒めることで,責任感や規範意識を高める。
3 C男に対しては,温かい雰囲気で接し,係活動などを通して,自立心を育てる。
7 予防援助の経過
4,5月,担任は3人に対して,チャンス相談に努めたが,A男の心はまだほぐれてなかった。
A男の心にふれる
6月の初めの昼休み時間に,理科の担当教師から『4校時の実験の時間にA男たち3人が騒いで授業にならなかった。』と,担任へ報告があった。
さっそく3人を呼んで事情をきくと,B男が「実験の仕方が分からないので,隅の方で遊んでいただけだ。」と言う。A男は,暗い表情でうつむいていた。C男は,不安げに担任の顔を見つめている。
「反省しているのか。」
担任が尋ねると,3人ともうなずいた。
「じゃあ,これから理科の先生の所に謝りに行こう。」
「おれたちだけでですか?」とB男。
担任は,笑って3人をつれて,理科室に謝りに行った。担任が,理科の担当教師に謝っている間,3人はしおらしくしていた。理科の先生に「ほら