研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -123/135page
担任にあんまり迷惑かけんじゃないよ。」と言われると,A男がこくんとうなずいた。B男とC男はしめたとばかりに走りだした。しかし,A男は,担任の方に向き直ってお辞儀してから,それに続いた。少し心が通じ合ったような気がした。
学習日記で自信を
AAI検査では,学習適応性はクラスとしては高かったが,個別的にみると,不適応状態もみられた。そこで全体の学力を高めようと,クラス独自の「学習日記」を考え,6月から実施した。1日に3ページ分,自分で立てた計画に従って自主学習し,翌日提出する。その際必ず2〜3行以上の日記をつけ,担任も当日の放課後までに必ず点検しコメントする方法である。
中には自分からページ数を増やす生徒も多く,学級全体として効果が上がってくるのが分かった。生徒たちが,充実感と自信を深めてきているのが強く感じられた。
しかし,A男の提出率は低かった。担任は3人に対して,できる限り褒めたり励ましたりして,やる気を引き出そうとした。B男,C男が比較的素直に受け止め,提出するのに対して,A男の反応は鈍かった。
また,B男の学習日記から,A男が最近部活動を休んでいることも分かった。
家庭訪問
その晩,担任はA男の家を訪ねた。父親は奥の部屋から出てこなかったが,母親とA男と話すことができた。担任が,A男が最近部活動を休んでいることを話すと,母親は驚いたようだった。
「あまり話してくれないものですから・・・」
「どうして休んでいるのかな。顧問のU先生もA男のこと期待しているのに・・・」
担任が答えを促すと,A男はしぶしぶ,先輩との関係がまずかったことを話した。なまいきだと見られて,殴られたりこそしなかったものの,こずかれたりしたことがあったようだ。
「小学校の時から,私らがハラハラするような元気のいい子でしたから・・・A男,あんたが人に暴力ふるうようなことないでしょうね。お母さん,それだけ心配してんだから・・・」
担任が帰る時,母親は一人外まで送りに来てそっと言った。
「先生もご存じのことと思いますが,主人があのようですから,A男もたびたび殴られてイライラしているようなんです。どうか,学校でのことよろしくお願いいたします。」
顧問のU先生との連携
家庭訪問の翌日,担任は相談室でA男と部活動のことを話し合った。A男は,バスケットボールを続けたい気持ちを強く持っていた。しばらく休んだために,かえって部活動に対する気持ちが強まったようだった。担任もできるかぎり応援すると言うと,うれしそうに笑った。後から思うと,担任の前で初めて見せた素直な表情だった。
担任は,バスケットボール部のU先生を訪ね,A男の反抗的と見える態度は,父親や先輩との関係から来ており,部活動の充実がA男を良い方向に向わせることなどを話し,協力をお願いした。 U先生も快く協力を約束してくれた。
夏休み中の指導
A男は,バスケットボールの練習を休まず続け,1年生の中では有望視される選手に育ちつつあった。
B男,C男の家にも家庭訪問をした。担任が,学習日記への取り組みのすばらしさを話すと,親は「あんまり,褒められたことなどないものですから・・・ただ最近,少しずつやる気になってきたみたいで・・・」と喜んでいた。
8月10日の一斉登校日,みんなが帰った後に午後から部活動の練習があるからと,A男たちが教室に残って弁当を食べていた。
一緒に座りながら,毎日部活動にきて練習に励んでいることを褒めた。
担任は,「2学期から3人で学芸係をやっては」と,勧めた。学習日記に消極的なA男を,B男とC男にリードさせようと考えたのである。
2学期に向けて
明日からいよいよ2学期が始まろうとしていた。 体育館の中がにぎやかだったので,担任が,中