研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -124/135page

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をのぞいてみると,隣町のH中学校とバスケットボールの練習試合をしていた。
 試合は,ダブルスコアの一方的な試合で,相手チームが勝っていた。U先生が,ベンチに指示するとA男が出場した。いきなりファウルをとられ,フリースローで得点された。しかし,かえって緊張がほぐれたのか,その後は随所にナイスプレイが見られ,終了間際には味方からのパスをキャッチしてゴールした。
 試合には負けたが,A男はまだ興奮しているように見えた。試合後のミーティングで,U先生がA男を指差し,身振り手振りを交えて教えていた。A男は,U先生のアドバイスを一言も聞きもらすまいという真剣な表情で話を聞いていた。
 帰りにA男と玄関で会った。「今日の試合がんばったな。すごくいい動きをしていたよ。自信ついたろう。」しかし,A男はよほど悔しかったのか,この次は絶対勝つことを約束した。
3人の変容
 2学期になって,学芸係となったA男たちは,学習日記を集めたり配ったりという仕事を熱心にやるようになった。特にB男は,みんなの前で話をすることが楽しくてならないらしく,張り切って仕事をした。C男は,口数は少ないが仕事っぶりはB男よりち密で,よく補っていた。A男は照れくさそうにB男,C男の後についていた。しかし,学習日記は分量こそ少ないものの,必ず提出するようになっていた。
 9月の終わり,校内球技大会があったが,3人は,それぞれ,バスケットボール,バレーボールの選手として出場した。いずれも,準決勝で敗れたが,3人の活躍によって学級の士気は高まった。
 新人大会で,A男は,1年生部員としては唯一のレギュラーに選ばれた。これは,B男,C男にとっても大きな励みになることだった。
 「A男,良かったな。実は,先生,ちょっとA男のこと,心配した時もあったんだけど・・・」
 「うん」A男は,うなずいた。
 「学習日記もちゃんとやってるし,ずいぶん変ったって,先生方も言ってるよ。」
 「B男,C男のおかげなんだ。あいつら,おれのこと心配して・・・・」
 「そうか・・・でも先生はA男のがんばりもBやC男に影響していたと思うよ・・・そしてクラスにもな・・・ほら,校内球技大会の事だよ・・ほんとうに3人ともしっかりしてきたな。先生うれしいんだ。」
 「ほんとうですか?」A男の眼が輝いた。

8 考 察

 この事例は,「集団暴力」が予測された3人の生徒に対し,その特性をとらえ,より個別的な指導を通して学校生活への適応を図り,問題行動の発生を未然に防いだものである。A男を中心とした3人の変容が相互に良い影響を及ぼし,同時に学級の士気を高める 波及効果 があったものと考えられる。
(1)3人とのラポールをつくりながら,学習日記で学習習慣と 意欲を引き出し ,基本的な学力を向上させた。また,学芸係の活動を通して学級内の 存在感や充実感 を高めたことは,3人に自信と安定感を与えた。
(2)家庭訪問によって両親とのラポールを深め,3人の学校生活での 良い点を認めたり褒めたり することで, 子供に対する気づき を促し,情緒を安定させた。
(3)A男の学校での鬱屈した攻撃性は,好きな部活動という 目的を見いだす ことにより,解消されていった。A男の部活動での活躍はB男,C男の励みとなり,さらに,B男,C男の学習日記や係活動への取り組みが,A男の学習に対する 意欲づけ となったものと思われる。
(4)B男は,学習日記の取り組みを素直に受け入れた。同様に係活動や部活動に熱心に取り組むことにより, 責任感や.規範性 が少しずつ育っていった。
(5)C男は,係活動や部活動に真面目に取り組むことによって,級友から認められるようになり行動に 自信と自立心 が見られるようになった。

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