研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -128/135page

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を立ててごらん。見てあげるから。」
A子「じゃあ,もう少しがんばってみます。」
 A子は,ようやく学習への意欲を示した。数日後,学習計画表を携え,受験に必要な科目の相談に職員室を訪れた。1時間ほどの相談後,A子は,ようやく自分が今何をなすべきかを理解したようであった。これからも相談しながら,学習を進めることとした。他の教科担任から,『A子の学習態度が落ち着いてきた』という声がきかれたのは,それからまもなくであった
  家族みんなで買物ができた。
11月下旬,母親から電話がはいった。「先生,みんなで・・・買物に行ってきました。私もA子さんとおばあちゃんといろいろと買ってきました。夕食を一緒に食べたかったのですが・・・。それでも話ができまして・・・ありがとうどざいました。」
 家族関係がほんとうに解決されたわけではないが,一緒に買物ができたことは,これからの家族関係に明るい見通しをもたらした。
 次の日,A子は家族で買物をした時の様子を,にこにこしながら,担任に報告した。

8 考 察

 この事例は,学級の受容的な雰囲気づくりと家族への気づきを通して,A子の環境を修正し,将来への目的を持たせて,不登校を防いだ例である。
(1)A子とのラポール形成について
 一緒にガラスふきをしたり,祖母の看病などから,A子の 良い点を見つけ ,親身に相談したことは,ラポール形成に有効であった。
(2)A子への働きかけについて
 ラポールの形成後,家事の手伝いを促し,遅刻を少なくして,生活の問題点を改善した。また進路問題や学習方法の相談をし, 進路への目標を自覚させる ことで,意欲や 自分に自信を持たせること ができた。看護学校への進学を希望し,努力する気持ちが見られるようになったことは,その現れといえる。
 また,厚生委員としての活躍は,祖母や, 他人に対する思いやり の気持ちを深め, 友人関係の改善 につながった。
10月実施のYG性格検査は,「抑うつ性」や「主観的」の因子が薄らいだ。毎日の観察からも,自己中心性が和らぎ,級友と雑談する笑顔のA子の姿にその変容が現れている。
10月実施のYG性格検査
10月実施のAAI検査の結果は,偏差値が「32」から「43」に上がり,学習環境の項目は,「1」から「3」に向上した。特に勉強の意欲と学校・友人関係の項目に改善が見られ,心身の健康の項目は「1」から「2」に変容した。
 以上の内容から祖母との心のきずなを深め,進路についての 目標を明確化 にしたことは,A子の情緒を安定させ, 問題行動に対する抑制要因の強化 になった。
(3)学級への働きかけについて
 A子の祖母思いの様子などを,それとなく話し,級友にA子の良さを気づかせた。また学級での A子の活動の場 を持たせたことにより, 互いの個性を認めあう学級の雰囲気 ができた。A子を受け入れることのできる数人の生徒が, 教師の意図を理解 し,自然にA子を仲間として学級の中にとけこませたことで, 友人関係の調整 が図れた。
(4)家族への働きかけについて
 いくたびかの家族面接により, 父母や祖母とのラポール が図られ, 家族の資料を適切に収集 できた。また 家族の人間関係の問題点を,家族それぞれが気づき,相互に改善を図れるように援助 した。
 特に家族全員で買物をした経験は,今後の家族関係を安定させるきっかけになるものと考えられる。また複雑な家族関係に深入りせずに,働きかけたことも,効果的であった。

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