研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -130/135page
緒にバイク関係の仕事をしたいという
。 「両親が言うとおりって,君はそんなに見込みがないと思われてるの?」と言うと,
「姉がいい子ぶってるから・・・・おれは勉強嫌いだし・・・・」と答えた。
家庭での人間関係が,M男の心に複雑な影を落としているように思われた。
家族関係への洞察
M男だけでなく,家族関係に問題を持つ生徒が多いことは,十分に考えられることだった。担任は,ホームルームの時間,「家族の肖像」と題して,自分自身とのかかわりを中心に家族の姿を描かせた。作文を書くことで,それまで気づかなかった家族同志の感情の交流や機微を,生徒自身が洞察できる。また,担任は,問題の背後に潜む家庭内の人間関係から生徒を理解することができよう。作文に表れたM男の家族関係力動図は,典型的な「ひずみ型」であり,M男は「家族内孤立児」として疎外感を感じていた。
(家族システム・力動図)
4 予測診断
M男の作文を,面接などから得たことと照応させると,次のように言える。
M男の両親は共働きの銀行員であるが,父親は大学,母親は短大卒で,勤勉で向上心の強い家庭だった。また,姉は東京の女子大に進学しており,成績はずっと優秀だったようである。
M男は,長男として期待されて育ったが,両親の要求水準の高さに対して,絶えず「達成不全感」を持たざるを得なかった。
また,何よりもA高は,M男の両親の期待していた高校ではなく,ここでもM男は「達成不全感」に悩まざるを得ず,劣等意識のみ強まった。
M男にとって,家庭は安らぎの場所ではなく,中学以来の親友とモータースポーツ関係の雑誌を読んだり話している時が唯一の救いとなっている。
勤勉な両親から受け継いだ”まじめさ(規範性)”が,問題行動に走ることを今のところ防いでいるが,適切なかかわりがなされなければ「バイク無免許運転」などの問題が起きることが予測される。
5 本人へのかかわりと学級づくり
(予防仮説と予防援助 T)
M男に対して,チャンス相談を行い,担任との信頼関係を高めるよう配慮する。また,良い点を見つけてさりげなく褒めることにより,M男の「自己尊重感」を強め,”やる気”を引き出す。
あわせて,日常の生徒とのふれあいの中や,学校(生徒会)行事への積極的参加を通して,学級全体の親和力や凝集力を高めたい。それが,学級全体の”やる気”や互いに支持し励みあう力になるものと考えられる。
毎日の学級づくりの中で
担任は,授業の前後や,昼休みの巡回指導,そして掃除の時などを利用して,M男や他の気になる生徒たちと積極的に話をした。一緒に掃除をした後,「気分がいいな。」と声をかけると,生徒たちの心が和むように思われた。
朝夕の週番との会話,日誌へのコメント―これらは,学級に担任の意思を自然に伝える良い機会として,積極的に活用した。
A高では,7月の期末考査明けに生徒会主催の「校内スポーツ大会」があり,その準備は6月半ばから始まった。ホームルームの時間の前に,ルーム長,体育委員と十分な打ち合せをして,「クラス旗」やゼッケンの準備に全員で取り組んだ。
担任は,M男を旗作りの運営係に推薦した。
どこかぎこちなく,しぶしぶという感じではあったが,M男は旗作りの中心を務め,得意のテニスでは,学年2位の原動力となった。
1年D組は,総合で学年9クラス中3位だった。
「学年3位。『なんだ,3位か。』とも言えるし,