研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -131/135page
『おう,3位だ。』とも言える。しかし,いずれにせよ,君たちが懸命に努力した結果だ。だから,すばらしい。
この機会に,君たちを褒めておこう。学科の方は学年平均点でも,君たちは遅刻・欠席をしない。何より,掃除をさぼらない!・・・・栄光の1年D組は,ここから始まるのだ。」
学級の凝集力は,次第に高まりつつあった。
6 家庭へのかかわり
(予防仮説と予防援助 II)
気になることを,率直に相談していくことも一つの方法であるが,問題が現実に起きていないかぎり,親はあまり真剣に受け止めてくれず,逆に抵抗を示すことも予想された。
そこで,M男を見守りながら,両親と話し合う機会をさがし,M男の心情を伝えて,無理のないように家族関係の見直しをすすめたいと考えた。
その機会は,思ったより早く訪れた。
母親へのアプローチ
担任が1学期の成績処理をしているところへ,突然,M男の母親が訪ねてきた。M男の進路について相談したいと言う。
M男自身は就職を望んでいたが,家庭では,あくまで進学させたい意向だった。そこで,夏休みに予備校の夏期講習に参加させたい親の意向と,アルバイトをしたいM男の気持ちが対立していた。
「もう少し,よく話し合ってみる必要がありますが,M男くんがやる気がないとうまくいかない心配もありますね。」
「どうすると,やる気になるんでしょう?」
母親は,ため息をついた。
担任は,M男が家族の中で感じている「達成不全感」について,控えめに説明した。そして,先日のスポーツ大会でのM男の活躍について触れ,やめさせてしまった部活動を本人が望むならやらせることを強く勧めた。達成可能な目標を立て,努力して成就する喜びが必要なことを訴えた。
翌日,担任はM男を生徒相談室に呼んだ。
M男は,昨夜,母親に『予備校の夏期講習にかようなら,テニスをやってもいい。』と言われたが,講習もテニスもやる気はない,という。
担任は,先日のスポーツ大会での活躍と期末考査で成績が上がっていることを褒めて,夜,家庭訪問することを約束した。
M男の心を理解させる
その晩,家庭訪問をすると,M男は部屋に閉じこもったきり出てこようとせず,母親は狼狽(ろうばい)していた。夕食のとき,突然M男が『バイクを買え』と暴れたのだという。
まもなく帰宅した父親を交え,担任はこれまで気がついたことを,ゆっくりと,しかし,率直に話していった。
「よくあることなのです。M男くんのため,と思ってやっていることが,M男くんの気持ちと微妙にかみあわず,逆に悩みの原因になっているのかも知れません。」
「でも,テニスだって,自分からやめると言い出したんですよ。」
「その前に,『テニスなんかばかりやって!』と怒ったことはなかったでしょうか?」
母親は,黙ってうつむいた。
担任は,M男の書いた「家族の肖像」の一部を紹介し,親の期待にこたえようとしてこたえきれないM男の悩みと苦しみを説明した。
「結局,私たちは自分たちの価値観を押しつけすぎていたんですね。M男自身の本当に望むことをもっともっと考えてやる必要があったんです。」
それまで,黙って話を聴いていた父親がつぶやくように言った。母親は,涙ぐんでいた。
「バイクのことも,本当に乗りたいというより反抗的な気持ちの現われなのかもしれません。」
担任の言葉に,両親はうなずいた。
7 M男の変化と学級の充実
その後,M男と両親との何度かの話し合いの後,夏休みの途中から,M男はテニス部に入り直した。
夏の間,真っ黒く日焼けして練習に熱中し,新