研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -132/135page

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人大会の地区予選で,ダブルスの部でベスト8に入り,県大会への出場権を得た。
 クラスの中では,相変わらず無口であったが,落ち着きと自信が,浅黒い日焼けした顔に漂っていた。成績も着実に上がっていた。
  互いに励みあう生徒たち
 また,M男だけに限らず,6月頃から意識して指導してきた生徒たちが,少しづつ意欲的になりつつあった。悩みを持つ生徒一人ひとりが,良い意味で影響しあって,切磋琢磨し,さらにクラス全体の士気を高めつつあるように思われた。
 遅刻・欠席・早退などの基本的な生活習慣については,担任としての一貫した指導を堅持した。
 9月には,生徒会役員選挙の告示があったが,D粗からは2人が立候補し,書記と会計に当選した。生徒たちは我がことのように喜びあった。
 毎月,実施している漢字テストは,9月,10月と連続して学年1位となった。学習意欲に乏しかった何人かの生徒も,大きく向上した。『やらないと,クラスのみんなに申し訳ないから。』と照れる生徒たちの表情は明るく,担任にとってもうれしいことであった。
10月末,「学年懇談会」で,各クラスの概況を報告した。各教科担任・生徒指導部の先生方からは,『全体として落ち着きや真剣な取り組みが感じられる。』ということだった。
1年D組の発表に際して,担任は,10月にクラス独自に行なった2度目のYG性格検査の結果を5月の結果と比較して,クラスのプロフィールの変容を報告した。下に見られるように,抑鬱感・劣等感等が薄らぎ,クラスの全体的な和やかさや人間的成長が伺えた。
 5月・‥…    10月―
YG性格検査
 M男のプロフィールも,抑うつ感や劣等感が薄らぎ,一般的活動性や社会的外向などの因子が高まって,行動的に変容していた。

8 考 察

 本事例は,日常観察や心理検査から「気になる生徒」であったM男に対して,本人の特性を生かしながら,学級内の相互支持的で互いに励みあう力を高め,学校生活への適応と問題行動の予防を図ったものである。また,その際家族に対して気づきを図り,家族関係を調整した。
 具体的には,以下のことが指摘できよう。
(1)学年としての計画的な 予防(指導)体制― 心理検査,中学校訪問,学年だよりなど―が生徒理解を進める上で有効に機能した。
(2)担任としての 日常の学級全体への予防援助 ―週番指導,清掃指導,早朝の発校指導,巡回指導などを積極的かつていねいに実施することが生徒との間に 信頼関係 をつくった。
 特に,遅刻・欠席・早退が4月〜11月間で延べ8名にすぎなかったことは,その信頼関係の現れであり, 受容しつつも一貫してけじめを求める担任の姿勢 を生徒は受け止めたものと考えられる。
(3)担任が, 生徒の個々の特性を認めて ,折々に評価していったことは,生徒の自己尊重感を高め ”やる気”と意欲を引き出す 上で有効だった。
 M男が,部活動を再び開始することによって,充実感と自信を回復したことは,その一つである。
(4)学級の個々の生徒の変化が,互いに良い方向に波及し影響しあって, 相互支持的で切磋琢磨する雰囲気 が形成された。それは,漢字テストにおける生徒たちのがんばり,生徒会行事や役員改選に際しての積極的参加に現われている。
(5)ホームルームの時間の作文指導(「家族の肖像」など)によって, 家族関係 について生徒の 気づきと洞察 を図ることができた。
 M男の場合は,さらに,担任の両親との話合いが, 家庭での両親の気づきと問題点の改善・解決 を可能にしたものと思われる。

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