研究紀要第81号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -133/135page
5 考察とまとめ
本研究は,第1年次に提示した「予防的な指導援助に必要な要点と基本的対応」が問題行動の予防に有効であることを,学校での実践を通して確認したものである。
研究にあたっては,まず,要点と基本的対応を手引として具体化した。これは,当教育相談部における日常の教育相談活動を基に作成し,研究協力委員が検討を加え,内容を深めた。そのため,この手引は学校でより活用しやすい内容になった。今後,実際の指導援助に大いに活用できるものと思われる。
次に,予防的な指導援助を必要とする児童生徒の把握と指導援助の効果を確認する調査・検査のあり方をまとめた。これは,児童生徒が持つ問題点を多面的,客観的に把握することや指導援助を振り返ることに役立つものと考えられる。なお,この調査・検査から,問題点を持つと思われる児童生徒は約20%存在していると考えられ,あらためて予防的な指導援助の重要性を認識した。
研究対象児を決定するに当たっては,指導援助者の学級の児童生徒であることを考慮した。そのため,全ての要点と基本的対応の効果を十分に確認できた。
指導援助は,手引を基に実施した。その結果,全ての事例において予測された問題行動の発生が,現時点において予防されている。このことは,予防的な指導援助の要点と基本的対応が,問題行動の予防に十分に働いたものと考えられる。特に要点の「指導援助者の姿勢」が全ての事例で大きな比重を占めているものと指摘できる。
以上,一連の研究において,「予防的な指導援助に必要な要点と基本的対応」が,この研究の範囲で問題行動の発生を予防することに効果的であることを確認できた。
また,一人の児童生徒への予防的な指導援助が,他の児童生徒へ波及していった効果も認められた。
さらに,指導援助者の子供を思う気持ちを基盤にした,日常の意図的な教育活動が即,問題行動の予防につながることをあらためて確認した。
6 総 括
本研究と63年度の研究をもって,「予防的な指導援助」の研究は一応の完結をみたことになる。
2年間の研究を通しての強い比象は,問題行動に至らずに学校生活を送っている子供たちの生き生きとした姿と,未来への明るい希望であった。
現在,やむなく問題行動を呈している子供たちが非常に多い。この子供たちに思いをはせる時,子供たちのやるせない生活に胸が痛み,なぜ予防できなかったのかを考えさせられる。また,それらの子供たちに対して,指導援助に当たっておられる先生方やご両親のご苦労が,いかに大変であるか思わずにはいられない。
予防的な指導援助は,日常の教育活動で当然なれていることではあるが,この研究を機により一層,意図的に実施され,全ての子ども達が明るい学校生活を送れるようになることを願う次第である。それは,本当の意味で,子供たちが教育という場において当然受けるべき事がらに,教師が十分応えることとも言えるのではなかろうか。
なお,来年度以降は3か年計画で「開発的な指導援助」のテーマで研究を進めていく予定である。 最後に,本研究の特質から,ご協力くださいました研究協力校並びに研究協力委員の方々の名を明記できませんが,ここに深甚なる謝意を表します。
<プロジュクト研究メンバー>
鹿島 清
斎藤 洋一
赤塚 公生
鈴木喜三郎
○伊藤 雄二
○荒 敏久
阿部 貞夫
畠腹 桂子
穂積 邦明
遠藤美代子
○菅井 一良
佐久間益郎
石岡 恒憲
玉川 邦夫
○斎藤 健一
○小林 淑人
(○印は前年度メンバー)
<参考図書>
「事例を通した教育相談の進め方に関する研究」
―予防的な指導援助―(第1年次)福島県教育センター編
生徒指導・教育相談資料3「先生はカウンセラー」
福島県教育センター編
心理テスト法入門 日本文化科学社
エンカウンター 誠心書房 人間づくり(1〜4集) 瀝々社