研究紀要第82号 「個を生かす学年・学級経営に関する研究 第1年次」 -002/123page
中に埋没してしまうことも少なくない。
つまり,「個の存在が認められない」「個の存在が大切にされていない」という事実,これが 第一の問題点 である。
さらには,「定型化した教育」「画一的な教育」が批判されていることも周知の通りである。これらの批判は,最近,増加の一途をたどるといわれている「不登校」「学習不適応」「集団不適応」等,学年・学級経営にかかわって大きな問題となってきている。
これらは,急速な社会変化の中で,主婦就業化,核家族化,少子化等が進み,家庭や地域の教育力低下が問題となり,「家庭のしつけ」までも学校教育に持ち込まざるを得ない状況になってきたこととのかかわりが大きいと思われる。
このような状況の中で,校内における指導的立場の教師が少なく,若年教師が増加している現在,各学校では,「個の特性を生かす内容・方法が確立されていない」という。これが, 第二の問題点 である。
また,情意面(興味・関心,意欲,態度等)に留意する必要があるといわれながら,児童生徒一人一人が学校生活の中で,満足感や喜びを十分味わえていないのではないかという声がある。今まで,ややもすると,認知面に偏りすぎて,一人一人の情意的側面を軽視してきた傾向にあったことが指摘されている。このことは,いわゆる,知識中心,学歴偏重主義の問題ともいわれている。これが, 第三の問題点 である。
以上のことを踏まえた上で,「より価値高い人間をめざして生きていくために必要な基礎・基本」とは何か。「国民として必要とされる基礎・基本」とは何か。個と集持のかかわりの中で個性豊かな生き方を身につけさせるために,どのような学年・学級経営を進めるべきなのか。この内容・方法が明確でない。これが, 第四の問題点 である。
2.この研究で目指すもの
「個」は,かけがえのない絶対的価値をもつ存在である。
したがって,学年・学級の中で「個」を序列化したり,「値ぶみ」の対象にしてはならないということになる。
「個を生かす学年・学級経営」とは,教師が児童生徒のあるがままを認め,それぞれをよりよい存在として学年・学級の中に位置づけていくことである。換言すれば,児童生徒自身が,自らの存在を自覚し,自分自身を学年・学級の諸活動に生かしていくことである。
このように,本研究では,児童生徒一人一人の自己認知と自己受寄を可能にすると同時に,積極的な他者理解と他者受容を通して,一人一人が主体的・自立的に自己実現を目指すことのできる学年・学級経営のあり方を求めていく。 ここでいう学年経営は,教師間の連格調整や運営面というよりは「児童生徒の集団における人間形成機能」としての経営面や「個を生かす」学習環境等を中心に扱う。
以上のことを踏まえ,本研究では,次のような条件を兼ね備えた「よりよい存在」としての,個性豊かな児童生徒の育成を目指す学年・学級経営のあり方を追究するものである。
○ 主体的・自立的な活動ができる実践力を備えている児童生徒。
○ 自己表出・他者受容を基盤にした社会性をもっている児童生徒。
○ 認知的側面,情意的側面の調和のとれた状態にある児童生徒。
3.個を生かす学年・学級経営のための研究の視点
それでは,「個」が十分に生かされているとは言い難い現状を解決するためには何が必要なのだろうか。