研究紀要第82号 「個を生かす学年・学級経営に関する研究 第1年次」 -023/123page
(5) 自由記述についての考察
<設問24> 「個を生かす」学年・学級経営を進めていく場合,困難を感じていることを書いてください。
< 考 察 >
全体傾向 小・中・高校における各年代ごとに共通している意見で最も多かったものは「児童生徒数が多すぎる。」「部活動や諸会議のため児童生徒と接する時間がとれない。」というものであった。
このことについての具体的な意見を次にあげる。
○ 「個を生かす」教育を進めていくには、一人一人の児童をしっかり理解することが大切であり,児童理解の根本となるものは一対一の対話とふれあいであると思う。(小,30代女性)
○ 現実の学校は多忙すぎて,教師も子どもたちも心にゆとりが持てず,仕事や活動をやるだけで精一杯である。子どもたちのためにおこなっているが,結局は子どもたちのためになっていないという矛盾があまりにも多いのではないだろうか。(小,30代男性)
次に,「個に応じた指導が難しい。」という意見が多かった。
○ 個の特性を見きわめるためのポイント,ゆととりが現在の自分にはない。(小,40代男性)
○ 「個を生かす」上で,まず,その個とは何かを十分にとらえているかという点で,不安は残る。生徒の生き生きした表情から,きっと少しは個をとらえて生かしているのだとは思うのだが・・・・・・。(中,20代男性)
○ 「目立ちたがり屋」的な生徒がおり,集団の中の一員という意識に欠けている場合が多い。このような生徒たちは,ともすると,自己表現が上手にできないおとなしい生徒と気まずい関係になる時があり,今後の課題である。(中,50代女性)
○ 学校でのほとんどの時間は授業である。学習についていけない者はつらく苦しい様子で,なんとかわかるようになりたいという意識がみられる。このようなことからも,学習中に,「納得した。」とか「すごいなあ。」とか「もう少しがんばろう。」という気持ちがもてるような授業づくりに力を注ぎたい。(中,20代男性)
校種ごとの年代別傾向
小学校20代,30代の教師は「個をどのように把握するか」「個を伸ばす指導法はどうすればよいか」等に悩んでおり,そのような研修の機会を望んでいる。また,40代,50代の教師は「集団生活に必要な基本的なしつけを徹底する指導法」を確立することが大切と考えている。
中学校 20代,30代の教師は「個を生かす指導と集団のきまりの指導の調和が難しい。」と感じている。
40代,50代の教師は「学校全体で取り組まなければ一人の教師が努力しても難しい」とか「教師の意識を変えていくことは容易でない。」という考えが多い。
また,40代の男性教師と50代の女性教師は,次のように述べている。
○ 「生徒一人一人のもつ能力や適性を最大限に伸ばし,個性豊かな生徒を育成することが大切である。そのため,次のことに努力したい。
・個々の能力,適性,興味,関心等の把握
・個に応じた学習指導法の工夫等
○ 一人一人の「個」をとらえることが難しい。
多忙さのあまり,一つの面から「個」をとらえがちで,多面的にみることに困難を感じる。
高等学校 ほとんどの教師が,少人数の学級編制にし,生徒と接する時間を多くしなければ「個は生かされない。」と考えている。
40代,50代の多くの教師は集団生活に必要な基本的なしつけを徹底する指導の必要性を訴えている。そのためには,今まで以上に家庭・地域社会との連携を強化すべきだとしている。
また,20代,30代の教師では問題行動をもつ生徒の指導,リーダーの育成や人間関係の改善等,多岐にわたっての悩みが多い。