研究紀要第89号 「事例に通した教育相談の進め方に関する研究 開発的な指導援助のあり方 第2年次」 -096/109page
男は,部顧問の先生から選手として活躍できる場 が与えられた。しかし,Q男が「今の私」に「自 信がないから選手にはなりたくない。」と心のう ちを表現していたので,日ごろの熱心な練習振り がQ男の生き方の1ページであり,部顧問の先生 をはじめ部員もQ男を認めているのだからこの機 会を大切にするように,また,上手や下手は問題 ではないと励ました。その結果,他者に認められ ることの大事さが理解できるようになり,最近で は人前でも自信を持って発言するようになり,笑 顔でいることが多く見られるようになった。
<Q男の「自分を知ろう」の作文より>
・・・何かあるとすぐ弱気になってしまいましたが,これからはもう少し強気になっていきたいと思います。・・・・・・・・・・・・・・・・・
(5)生徒の変容と考察
[1] 学級について
今回の実践のねらいに基づいて,意識調査3の1, 3,4,5,6の5項目総点による変容の様子を分析し たところ(図III−5),上位群においては指導援 助の効果はマイナスに作用したが,他の2群にお いてはいずれもプラスに大きく変容した。中・下 位群が自己をよりいっそう肯定的・積極的に理解 しようとする眼と心が養われてきたことを意味し ていると考察できるのに対し,上位群は自己を今 まで以上に厳しくかつより客観的に理解するよう に成長したためと考えられる。
[2] L男について
中位群のL男にとって「自己理解」が深化した ことは,図III−6からも明らかなように,少なか らず他の要点へも好影響を及ぼしていることが分 かる。
[3] 指導者の感想
生徒一人一人に対する指導援助の在り方を追究しこれを実践することによって,生徒一人一人を意識して見るようになった。そのため,指導者自身が生徒一人一人の反応を今まで以上に敏感に感じとることができるようになり,生徒の変容に気づく眼がよりいっそう養われた。
また,今回,特に3群を意識して指導援助に当 たったことは,学級集団を同一視せず,生徒一人 一人を大切にする上で欠かすことができないアプ ローチであると思われる。
ま と め
「自己理解を深めるための指導援助」の実践を通して次のことが分かった。
(1) 生徒自身が自分の特性に気づき,その特性を他者,特に教師に認められることにより,いっそう自信をもつようになる。その結果,学習への取り組みや特別活動などへの参加意欲が高まるようになる。 (2) (1)の効果は,教師と生徒の日ごろの人間関係において,特に学級経営における「所属と愛情」の充足により,より効果が期待できる。 (3) 自分の特性について理解しているとは必ずしも言えない生徒にとって,教育相談的な指導援助はとても効果がある。 (4) 自己理解がかなり深まっている生徒は,自己理解を深めるほどに自己を厳正に理解できるようになることが分かった。