研究紀要第89号 「事例に通した教育相談の進め方に関する研究 開発的な指導援助のあり方 第2年次」 -100/109page
(5)生徒の変容と考察
[1] 学級について
全員に対する教育相談が終了したところで,学 級の時間を活用して事後調査を実施した。この実 践の内容に直接該当すると思われる項目について まとめたものが図III-7である。
5. そんなに好きでもない人でも,その人のよいところを
みつけようとしている。6. スポーツなどに打ち込んでいるときの自分が好きだ。 7. おおぜいの人といるより,一人でいる方がいい。
(反転項目)8. 私にはこれからのびる可能性があると思う。 9. 担任の先生は,私の考えを理解している。 この結果から,本事例で紹介した一連の指導援助が,下位群の生徒には有効であったことがわかる。
上位群・中位群の生徒には有意な向上が見られなかったが,上位群の生徒および一部中位群の生徒は,自尊感情が事前にある程度満たされていたためと考えられる。これらの生徒に対しては「将来への向上」を意図した指導援助が必要であり,新たな方針で指導援助にあたる必要がある。
観察からも,学級全体の変容をつかむことができた。校内合唱コンクールへ向けての練習の期間中に,生徒間で励まし合ったり,教え合う姿が多く見られたことはその一例である。結果的には学年優勝することができ,まとまった学級としての誇りを持たせることができた。
[2] R子について
10月中旬の宿泊教室では,各係の仕事に必要な 内容を全員で話し合い,自分に合った係の希望を 出し合って担当者が決定された。R子は保健係を 希望した。必要な品物のリストを作成して準備に 当たったり,当自における怪我の処置の仕方など R子の姿は班員の驚きであり,反省会では話題に もあがり,照れながらもうれしそうであった。 また,他校との交歓会では,来校した客に茶道 クラブの優待チケットを懸命に渡しているR子の 姿があった。残念ながら,この姿は学級の生徒の 目にはあまり触れなかったが,先生方がR子のた てたお茶を,楽しそうに,にぎやかに話し掛けな がら飲んでくれた。(R子の意識調査にみる変容 は表3−3を参照)
R子のように否定的な自己像を持つ生徒に対し て,アンケートなどで自他のよさを具体的に考え る機会を与えたり,個に応じた言葉かけ,教育相 談などを実施したわけであるが,これらの指導援 助が自信や肯定的な自己像を持たせるためには有 効な手段であることが確認できた。
ま と め
自尊感情を高めるための実践事例を通して,次のようなことが分かった。
(1) 自己理解」と切り離して「自尊」の指導援助を行うのではなく,自己理解の強化を図りながら並行して指導援助に当たることが重要である。 (2) 個別指導だけに重点をおく指導援助ではなく,学級全体やグループなどの集団を通した指導援助との関連を吟味して指導援助に当たる必要がある。 (3) 「他からの認め」や「自他のよさ」については,漠然とした主観的な資料を与えるのではなく,具体的な資料を与えることが効果的である。従って,本事例のアンケートに見られるような,各種資料の収集上の工夫が必要である。 (4) 指導援助者には,収集した資料を基に否定的な自己イメージをなくすことができるようなカウンセリングの能力を身につける必要性が理解できる。