研究紀要第89号 「事例に通した教育相談の進め方に関する研究 開発的な指導援助のあり方 第2年次」 -103/109page
させた。次は班での話し合いの様子である。
司会 (生徒)先輩の体験談はとてもためになったと思いましたが,就職された先輩の
話を聞いてどんな感想を持ちましたか。T男 「自分の発言や仕事の一つ一つに責任がある」という話を聞いて,社会人として
生きることは,責任や厳しさが求められる のだということを実感しました。U男 責任や厳しさはあると思うけど,自分の仕事を思いきりやれるのは面白いと思い
ました。仕事に生きがいを持てることは幸せなことだと思います。V男 先輩の話を聞いて,人間関係が大切だということが分かった。どんな仕事でも一
人ではやれないと思うし,よい人間関係を作ることは,楽しく仕事をするための条件
だと思います。W子 私は「残りの学校生活を悔いの残らないように送れ」という言葉が印象に残りま
した。一日一日を大切に過ごすことが,将来の充実した生活につながるのだとおっし
ゃっているのだと思います。司会 僕もあの言葉は印象的だった。体験を通したアドバイスだったと思います。大学
に進まれた先輩の話はどうでしたか。X男 大学生活の話を直接聞くのは初めてなので強い印象を受けました。先輩のように
目標を持って勉強している大学生はすごいと思いました。僕も将来情報技術者になる
ために,専門の勉強をしっかりしようと決心しました。‥‥以下略‥‥ 各班とも,司会者を中心にして活発な話し合いが行われた。生徒は先輩の体験談を聞いた感想を率直に発表しながら,自分の将来に目を向け,自らの向上に努力しようとする意欲を高めた様子であった。
エ 個別教育相談
事前調査や観察の結果から,将来への向上の意欲の低い生徒に対して,自己理解を深めさせ,自尊の感情を高めさせながら,将来の目標を具体的に設定させることをねらいとして,個別教育相談を実施した。次はS男に行った個別教育相談の内容をまとめたものである。
S男は親しい友人もなく,学級では孤立している。また,希望する進路も未定で,将来への向上の意欲も低い生徒である。
[1回目の相談]
S男の係の仕事ぶりを話題にしながら「責任感が強いんだね」「学級の生徒は感謝しているよ」などの言葉かけをし,S男に学級の生徒から認められているということを理解させた。さらに,教師がS男の「よさ」をほめ, 自尊感情を高めさせながら,自信を持ってできることは何かを考えさせた。S男は「学級の生徒と進んで話をしてみます」と話した。
[2回目の相談](1回目より1週間後)
S男は数名の生徒と話を交わすことができたことを嬉しそうに話した。「頑張ったね。やれば君もできるんだ」と言葉をかけながら自信を持たせた。さらに,学級の生徒と交流を深めながら,進路のことや将来のことを話し合ってみるように励ました。
[3回目の相談](2回目より2週間後)
S男は学級の生徒との交流が深まっている。将来はどのような職業に就きたいのかを尋ねた。S男は地元の企業に就職し,設計の勉強を深めたいと話したので「将来のことをよく考えながら目標が設定できたね。君ならきっと素晴らしい技術者になれるよ」と励ましの言葉をかけ,将来への向上の意欲を高めさせた。
S男は,両親と相談したり,学級の生徒と意見を交換したりしながら,自分の将来の目標を具体的に設定できるようになった。
(5)生徒の変容と考察
[1] 学級について
今回の研究のねらいに基づいて,意識調査6の