研究紀要第89号 「事例に通した教育相談の進め方に関する研究 開発的な指導援助のあり方 第2年次」 -104/109page
項目1,2,3,4,8,9の6項目の総合点に よる,上位,中位,下位群の変容を見ると図III− 8のようになる。
結果からは,事前調査での中位・下位群の将来への向上の意欲が高まっていることが分かる。内容を具体的に見ると,伸びが著しいのは次の項目である。
1 困難につきあたったり失敗しても,自分をより良くしようと努力している。 2 身近な人と自分の将来の希望について相談している。 8 努力すれば,自分の才能を生かした人生を送ることができると思う。 これは,「先輩の体験談を聞く」を通して,個個の生徒が自己実現に向かって意欲的に生きる生き方を学んだことや,「個別教育相談」によって,自己理解を深め,自尊の感情を高めながら,将来に向かって努力しようとすることができるようになったためであると考えられる。また,学級への一斉指導だけでなく,生徒たちに自主性を持たせながら指導援助を行ったことや,一人一人の生徒に教育相談的なかかわりを持ちながら指導援助をしたことも大きな要因であると考えられる。
一方,上位群にあまり変化が見られなかったのは,調査項目の大部分を事前調査で満たされていたためと考えられる。
[2] S男の変容
指導援助の過程で個別教育相談を実施したS男 の変容を見ると図III−9のようになる。
結果からは,将来への向上の意欲が高まってい ることが分かる。これは,個別教育相談によって S男に自分のよさに気づかせながら,自信や誇り を持たせ,将来の目標を具体的に設定させたこと が大きな要因であると考えられる。
つまり,自己理解が深まることや,自尊感情が 高まることが,将来への向上の意欲が高まること と関連することが分かる。
ま と め
将来への向上の意欲を高めるための開発的な指導援助の実践を通して,次のことが分かった。
(1) 「将来への向上」の指導援助は,「自己理解」や「自尊」の指導援助と関連を持たせ,それぞれ深め,高めながら計画的に行うことが必要である。 (2) 学級への一斉指導だけでなく,班(グループ)活動や個別教育相談を取り入れ,生徒に興味・関心を持たせながら指導援助することが必要である。 (3) 「将来への向上」の指導援助は,学校教育の様々な場面での実践が必要であり,校種,学年,場面などに応じた指導援助の内容・方法を研究する必要がある。