研究紀要第89号 「事例に通した教育相談の進め方に関する研究 開発的な指導援助のあり方 第2年次」 -105/109page
IV 研究のまとめ
本研究は,これまでの「治療的な指導援助」「予防的な指導援助」の在り方の研究を踏まえて,平成2年度より「開発的な指導援助」の在り方について進めてきた。
これは,一部の問題行動を持つ児童生徒への指導援助だけでなく,人間的な触れ合いを基盤とした集団と個人の全人的な発達<自己実現>を促すためのより積極的な指導援助の必要性を痛感したからである。
第2年次の本年度は次の内容について研究を深めた。
(1) 第1年次の研究を踏まえて,開発的な指導援助の効果,特に一人一人における変容を明らかにするため,評価・分析・活用への見通しを持った。 ○ 6要点の事前・事後の意識調査を作成し,上位・中位・下位群に分けて変容を比較考察するとともに,個々の児童生徒の変容をレーダーチャートで分析した。 (2) 研究協力校において,分担された要点と基本的対応の内容に基づいて指導援助を実践し,児童生徒の変容をまとめた。 ○ 意識調査における事前と事後の結果からはいずれの要点おいても,上位群はあまり変化が見られなかったのに対して,下位・中位群は大きな変容を確認した。 ○ 6要点の開発的な指導援助の実践を通して今後のいくつかの課題が明らかになった。特に,一つの要点の指導援助は,いくつかの要点の指導援助と有機的に結びついており,各要点の総合的な指導援助に配慮しながら進める必要があることを認識させられた。 ○ 自己実現に向けて全人的な発達を促すためには,集団と個人の両方から,その関連を保ちながら指導援助を推し進めることが大切である。また,日ごろの教師と児童生徒の親密な人間関係が基盤にあることが,どの要点の実践でも強調された。 第3年次(平成4年度)の課題として次のような点が挙げられる。
(1) 第2年次にまとめられた開発的な指導援助の内容・方法に基づいて教育活動場面での計画実践案を作成する。 (2) 調査・検査の方法を検討し,より正確に児童生徒の変容を捉える。 (3) 研究協力校において分担された要点及び活動場面ごとの開発的な指導援助の実践を深める。 (4) 研究協力校の実践を基に,開発的な指導援助の在り方についてまとめる。 現在までの研究の推進にあたり,ご協力いただいた各学校の諸先生方に心から謝意を表するとともに,今後の研究推進のために,各学校・関係機関からのご意見やご助言を期待する次第である。
〈研究協力校および研究協力委員〉 二本松市立二本松南小学校 (教諭 渡辺浩人) 福島市立蓬莱東小学校 (教諭 本間貞二) 福島市立信陵中学校 (教諭 小柴治紀) 本宮町立本宮第一小学校 (教諭 安齋次弥) 福島県立福島工業高等学校 (教諭 武藤次雄)
〈研究プロジェクトメンバー〉 朽木 耕作 根元 文弘 斎藤 洋一 水谷 由克 伊勢 英子 後藤 ヨネ 八島 喜一 鈴木喜三郎 遠藤美代子 渡邊 和夫 ・ 阿部 貞夫 ・ 佐久間益郎 ・ 畠腹 桂子 ・ 赤塚 公生 ・ 玉川 邦夫 (・印は前任者)
<参考文献> 「完全なる人間」 アブラハム・マズロー著 誠信書房 「学校相談心理学」 神保信一,中西信男,富本佳郎,橋口英俊共著 金子書房 「教育評価法総説」 橋本重治著 金子書房 「心理テスト法入門」 伊藤隆二, 松原達哉共著 日本文化科学社