研究紀要第90号 「個を生かす学年・学級経営に関する研究 第3年次」 -008/117page
を全員の前で『認めてやったり,ほめたり,励ましたり』しました。一番驚かされたのは,子供たち自身が私の働きかけを越えて互いに助け合い,互いのよさを認め合っていることでした。A男とB子が予想以上にうまくいったのは,子供たち自身の力です」と述べていることは,よさを生かし伸長する支援の在り方に重要な示唆を与えている。
つまり,A男の場合は,E教諭のよさを生かし伸長する支援が効果的に働いたのである。みんなが嫌がるゴミ捨ての仕事を帰りの会ではめてやったことが,A男の学級内でのポジションを高めた。さらに,E教諭が宿題をやってきたことやいろいろな学習の場をとらえて,ほめ,励まし続けたことが学習への意欲を引き出し,生活全般まで変えることにつながったのである。
これは,A男の「仕事を嫌がらない」よさを認め,生かし,「意欲的に物事に取り組む」よさを仲良したと言える。
これに反して,B子に友達から嫌われていないという自信を持たせる働きかけは,思うように効果を上げなかった。
しかし,B子のけがをきっかけにして,A男を中心にした友達集成がB子をいたわり,みんなと遊べるB子へと変容させた。友達集成がB子に,友達から嫌われていないという自信を持たせたのである。
このような結果を生んだのは,E教諭が1年担任のときから学級経営の基本に据えてきた,「F子のような弱者をいたわる」という学級経営実践が学級全体に痩透していたからであると考えられる。学級全体に弱い者をいたわる温かい雰囲気が醸成されていたことが,E教諭の働きかけを越えて友達集団がB子をいたわり,B子に自信を持たせたのである。
このことは.「弱者をいたわる」という学級経営の方針が子供たち自身に互いにかかわり,互いのよさを認め合い,仲良し合うという相互作用を可能にしたことを意味している。すなわち,日々実践されている学級経営がいかに「個を生かし,伸長する」のに重要であるかを示唆している。
事例2 よさを認め合う学級経営によって,自分の行動に自信を持ったS男の例(小学5年生) (1)S男の生活の様子
○ 幼さを残す行動が目立ち,級友からからかいの対象になりやすい。
○ 自己主張が強く,集団の中で孤立する傾向がある。
○ ささいなことで級友とトラブルを起こすことが多い。
○ 行動に自信がなく,何事にも消極的である。(2)支援の方針
S男の日常生活の様子をもとに,よさを生かし伸長するために,下記のような支度の方針を立てた。
担任が積極的にS男にかかわるとともにその場に応じた賞賛や助言を心がけ,学級内における存在感を自覚させ,自信を持った行動ができるようにする。 具体的な方策として次のような手だてを考えた。
・ よさを自覚させる手だて
「友達から見た君のよさカード」,「聞いて ねカード」の活用
・ よさを知らせる手だて
「学級通信」,「振り返りカード」の活用
・存在感を自覚させる手だて
「連絡カード」の活用
・ よさを生かす手だて
係活動の工夫
・ 自信を持たせる手だて
積極的な働きかけとその場に応じた賞賛や支援(3) 担任教師からの働きかけ