研究紀要第90号 「個を生かす学年・学級経営に関する研究 第3年次」 -012/117page
<級友の変容>
・初めは,担任にはめられようとする気持ちからS男にかかわっていた。しかし,2学期からS男が因っている時,かばってあげたりすることが自然にできるようになってきた。<教師の変容>
・ S男に対してはささいな行動にまで目が行き届くようになり,その行動を認められるようになった。
・休み時間などにおいて,児童のよさを見いだそうと努力するようになった。<事例を通しての考察>
本事例における支援の在り方として,以下の3点が「個を生かす学級経営」の基本姿勢として,重要であることが明らかになった。1 よさを生かし伸長するために,年間を適して意図的・計画的に指導を行っている。
児童のよさを認め,生かすことは,級友のみならず担任・保護者のその子に対する見方・考え方を変容させなければならない。そのためには,普段の働きかけと長い時間が必要である。その場限りの支援に終わらず,長い時間をかけて着実にその子のよさを認め,生かしていくためには年間を通した意図的な計画が立てられなければならないことを示唆している。2 様々な手だてを実践する中で担任は,S男のよさを認めるためにS男本人だけに対する賞賛に終わらず,学級通信などを活用し.級友や保護者にS男のよさを紹介している。
このことによってS男に対する見方・考え方の効果的な変容をねらっている。学級通信発行の翌日,S男の行動に変容が見られたということは,級友全員に認められたということが大きな自信につながったからだと推察できる。3 担任自身が率先してS男にかかわり,S男のよさを見いだそうと努力し続けている。
孤立化傾向にあるS男にとって,担任の温かい励ましの言葉や行動は,何ものにもかえがたいものであったと思われる。よさを生かし,伸長するためには,まず担任の意識の変革と行動力が必要であることを本事例は示している。担任の意識が変われば,学級の児童の意識も変容するものである。担任自身が積極的にその子にかかわることによって,様々な手だてもさらに有効に働くものと考えられる。
以上のことから,どの児童にも,よさを認め,生かそうとする担任の熱い願いを本事例から,読み取ることができる。
事例3 情意的側面の評価を重視し,よさを認め,継続して励ましの言葉かけをしたことにより,意欲的に活動できるようになったM男の例
(中学2年生)(1) M男のプロフィール (教研式 図音文化)
2 教師に対しては肯定的態度で信頼している様子であり,学校生活に対する適応感も普通にあ
○ 総合診断の結果
1 情緒面での安定感,身体的適応感において特に問題点は見受けられず,自己に対する受けとめ方も普通で問題ないが,友人関係において不適応感が強い。