研究紀要第90号 「個を生かす学年・学級経営に関する研究 第3年次」 -016/117page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

方6時50分頃まで黙々とポスター書きをしている。「遅くまで頑張ってるね。ご苦労さま。」と声をかけたら,「時間が足りないんです。」という声が返ってきた。人が見ていても,見ていなくとも黙々と取り組む姿は本当に立派であるとほめる。彼に教えられる毎日である。
[10/17 合唱コンクールの練習] すばらし歌声である。音楽の授業で,先生からほめられた男子のパートが学級の合唱を引っ張っている。

※ 6月から10月にかけてのM男の変容に ついての担任の記録

<M男の変容>
 1分間スピーチを中心にしてM男の様子を 見守ってきた。学級全体としては,目立たな い生徒が多い中で,特にM男は1年の頃から 意思表示ができず,先生方も心配していた生 徒である。

 それが今では学校行事の中で,活躍する機 会が増えてきた。とてもまじめな生徒である から,何事も着実に仕事を行っている。何か をやる時,今までは不安げな様子も時々見ら れたが,2学期に入り積極性が見られ,分か らないところは教師に聞いたりして,頑張っ ている姿は,学級の雰囲気をよくしている。 一生懸命取り組む姿はたいへん好感が持て る。今,文化祭実行委員になり,空缶集めを 呼びかけている。毎日遅くまで残り「空缶で トンネルをつくろう。」を成功させるために 頑張っている。担任としては,彼がますます 明るい方向へいくと感じている。

<今後のM男に対する支援>
 ちょっとした言葉かけで,生徒たちは明る くなり,不安なことも少なくなる。  振り返ってみると,自信を付けさせること がポイントである。

 毎日の忙しい生活の中で,おとなしい生徒, 控え目な生徒にこそ声をかけていかなければ ならないと痛感した。この半年の中でM男自 身が大きく成長したことが担任としてとても うれしく思っている。

<事例を通しての考察>

 1) 場と機会をとらえた言葉かけ
 担任は朝や帰りの学活,班会議,清掃の時間,放課後の生徒会活動等々,生徒の活動している姿が見える場面において,励ましや賞賛の言葉かけを繰り返し行っている。また,他教科の先生や副担任の先生からも情報を得てタイミングよく言葉かけを行っている。このような場と機会をとらえた働きかけは,毎時間生徒と行動を共にできない中学校においては,個の存在を認め,個の存在を大切にする方法としては効果的なものと考えられる。

 2) 欠点指摘型から長所伸長型の指導
 この事例から分かるように人の前で発表が苦手なM男の欠点を指摘するのではなくて,少しでも発表できたM男を励ますことが生徒に自信を持たせ,やる気を起こさせるのには効果的であることが分かる。「個の特性をとらえ,個を生かす内容・方法」として,担任がM男に対してとった支援の方法は効果的であったと考えられる。人の前,特に同級生の前で欠点を指摘された場合は,自分に対して自信をなくすと同時に,担任教師に対し反感や憎しみを持ち,同級生との人間関係までゆがめてしまうおそれがある。

 中学校に不登校生徒が増大している現状を考える時,生徒一人一人がそれぞれに学級の中でそれなりの存在感を持ち,学級の一員としての活躍の場を与えていくことが,これからの学級経営のポイントになると考える。

 3) 情意的側面を大切にする指導
 担任教師が述べているように,M男に対し級友は温かい目で見ていることが,「いいこと見つけたカード」から読みとることができる。

○ 級友がM男を評価していること

 ア 放課後に黙々と空缶を洗っている姿


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は福島県教育センターに帰属します。