研究紀要第90号 「個を生かす学年・学級経営に関する研究 第3年次」 -021/117page
(2) よさを伸長させようとする態度の育成
「1分間スピーチ」や「学級通信」などを通して,T子のよさを友達が認め,T子も友達のよさを積極的に認めることによって,「友人関係が全くつまらない。」から,「友から学ぶことは,大変多い。」「友達とはいいものだ。」という考え方に変わっていった。また,休み時間など一人で過ごすことが多いT子が, 「学級の机の整理」「班新聞の発行」「学級に花を持参」するなど,学級の一員としての自覚を持つようになった。
これらのことは,生徒が互いによさを認め合い,自分のよさに自信を持ち,よさの伸長にもつながったものと考えられる。
(3) 諸検査や調査を生かしたよさの発見と伸長
「よさのレーダーグラフ」では,教師の評価が,生徒の自己評価や相互評価より低い場合,教師側の見方を変えることによって,生徒の変容が期待できる。教師はT子の「指導性や明るさ,活発さは低い」と評価していた。しかし,T子は教師や友達の支援を受けながらも,生活班の班長の役目を果たしたり,自主的に班新聞を発行したり,校内陸上競技大会で長距離走に出場するなどして,自分のよさに自信を付け,よさを伸長,発揮させることができた。
個のよさを把握し,伸長するためには,講検査や調査の結果を指導,援助に生かすことが大切である。この場合,客観的な評価をもとに,生徒に対する教師の見方を変え,支援の方針を立てる必要がある。
(4)情意面の評価を生かす賞賛と支援
T子の場合,5月の目標は「中間テストを頑張る」といった程度の目標であった。そこで「教師からのアドバイス」の欄を利用したり,言葉かけをしたりして,一人一人にあった支援を行い,達成可能な目標を設定させた。その桔果,9月には,「学習課題を忘れないようにする」「授業中は少なくとも2回は手を挙げ,発表する」「起床時間を守り,遅刻をしない」という,具体的な目標を立てられるようになった。生徒一人一人の目標に対して,具体的な支援を行うことは,個の存在を大切にする方法の一つとして大切なことである。また,集団の目標と個人の目標の調和を図るためにも必要なことである。
また,目標達成までの過程を重視し,賞賛や励ましを繰り返すことは,情意面の評価を重視することのみならず,自分のよさに気付かせ,伸長することにもつながった。
(5) 支擾の方針について
「性格的にマイナス要因が多く,孤立化傾向にあり,学校を休みがちなT子」に対する支援が,友達とのかかわりを深め,班活動や係活動に対して積極的に取り組み,行動や発表に自信が持てるようになった。事後調査でのアンケート「自分のよさを挙げる」では,「やさしさ」「責任感がでてきた」「友達と協力できる」「やや積極的になった」「明るく振る舞える」「学級のために働こうとする」「礼儀正しい」を挙げている。
これは,本事例による支援が,T子のよさをとらえ,生かし,伸長することができた桔果であると考えられる。
中学校の場合,学級経営の基盤に「生徒のよさをとらえ,生かす」ことが大切であるが,学級担任だけではなく各教科担任など,学級にかかわる全教師の支援が必要であり,学年・学校経営の中で「支援の在り方」を研究し,実践する必要があることをも本事例は示唆している。
3 個を生かす学年・級経営アイディア集1日編
「アイディア集1日編」は,日常の学級経営の中で,具体的にどうすることが「個を生かす」ことにつながるのか,という見地から昨年度収集・開発したアイディア集を学校生活の1日の活動に合わせ,主な事例を使いやすいようにコンパクトにした。
内容的には,支援の一例であることを踏まえ,実態に応じて活用していただきたい。