研究紀要第93号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第3年次」 -097/117page
かがいながら,自分に関心を向けて欲しい気持ちの表れである。どうしても否定されがちであるが,「つかまったら大変だよ。」と,とても心配している言葉であると,肯定的に見方を変え,M男の表現を受け入れた。このような援助の積み重ねが,M男の心を開かせるとともに,自分自身への気づきを高めたと思われる。
Y子は,休も丈夫でなく体力とともに気力も十分とは言えない。発言も少なく,自分から取り組むことは余り見られなかった。飛べない蛍に「かわいそうに,どうしたらいい。」と声をかける表現は日常の自分自身そのものである。教師や友達からの言葉かけを多くしたり,係の仕事に楽しく参加させたりする援助に努めた。発言は少ないが,日記を通して対話するようになり表情も明るくなった。M男もY子も所属と愛情に包まれた思いが高まるとともに自分自身への気づきも良くなってきている。
3) 教師自身の変容について
つまり,M男を問題のある子と見ていた教師自身のあり様に自ら気づき,M男に対する対応が変わり,それにより,M男の言動も加虐的なものから温和なものへと変容していった。教師は,「M男の問題点は,私の問題点であった。」ということに深く気づき,現象として現れたものからだけで判断するのではなく,そうせざるを得なかった心情を推し測るまでになったのである。
この実践で教師は,児童の話を肯定的に聴き,理解しようと努めた。その過程で,児童を無条件積極的に受け入れ,かけがえのない一人の人間として受容していくことが,児童をよりよく変容させていくことに気づいた。今,教師は,授業の充実を図ろうとする意欲が高まり,児童の気づきを促し育てようとしている。教師が児童を理解することは,教師が自分自身に気づいていくことであることを身をもって実感したようである。
2 「自己理解」を深めることに中心を置いた指導援助の実践
(1) 学級の実態について
小学校6年
男子15名 女子17名 計32名6年生になって担任した学級である。学習面での理解力は低くないが,学級の雰囲気は明るさが十分でなく,個々のよさを認め合い,生かすということが少ないためか,まとまりがあるとはいえない。
特に,女子の中には,担任を避けるような様子さえ見られ,児童と教師の人間関係の回復に努めることが急務であると思われる。また,一人一人が自分勝手な行動をとり,自分や他人のよさに気づいていない。事前調査の結果を見ると,特に,自己理解の次の質問肢で否定的に答えている児童が多く見られた。
○ 自分の性格のいいところを知っている。(質問肢1)
これらのことから,児童一人一人に自分自身の性格や身体について理解させ,自信を持って行動できるようにすることが大切であると考え,「自己理解」を深めることに指導援助の中心を置く必要があると考える。
○ 話し合いのとき,自分の考えが言える。(質問肢2)
○ 自分の身体で気にいっているところがある。(質問肢13)(2) 実践の視点
上記の学級の実態から,12の基本的対応の中の自己理解に関する取り上げ,他の要点と関連づけて指導援助することにした。 グループ学習や一斉学習の活動をする中で.集団の中に自分の考えを出したり,共に活動したり
[5] 学校生活での規則や責任感を自覚させる。
[6] 自分への気づきと理解を図り,自分自身についての洞察を図る。
[11] 必要に応じて調査・検査を実施し,その結果を児童生徒一人一人の成長のために役立てる。を