研究紀要第93号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第3年次」 -105/117page
発表することはできない生徒であった。そのA男が級友の注目の中,立派に発表した。A男のほのかに紅潮した表情からは「やればできるぞ!」という気持ちが伝わってくるようであった。同じようなことがB男に関しても起った。普段の生活の中では,目立つことのない二人が級友たちから認められ励まされる姿があった。
4) 授業実践についての考察
ア 自ら考え主体的に活動させる
生徒の手で準備した手近かな材料を実験に取り入れたことは,好奇心をかき立て,その結果,生徒は肺の模型作りに積極的に取り組んだ。自分なりの考えをもって主体的に学習をすすめるよう意図した教師のねらいは適切であったと考えられる。イ 考えを深め合い自信を持たせる
「ここを押すと空気が動くよ。」「ああそうかこうすると動くね。」と模型を手にしながら自分の考えを伝え合い,受け止め合うことができた。こうした生徒問の動きの中で,生徒は相手の考えのよさを感じ取ったり,自分の考えに自信を持てたりすることができたと考える。ウ 肯定的に受け止め,認め合う心を育てる
発見した喜びに対し「それはいいところに気がついたね。ノートにメモしておきなさい。」と教師から認められ,受け止められた生徒が嬉しそうにペアの相手と話し合っている。ここにも自信をつけ意欲を高めた生徒の姿があり,さらに,ペアの意見を学級全体に反映させたことは,相互尊重の心を育てるとともに所属感を高める契機となっていると思われる。5) 他の教育活動における実践
他の教育活動の場面でも意図的に自尊を高める援助を試みたが・それぞれの領域での援助が他とあいまって有効に働いている。宿泊訓練では生徒をより前面に押し出し,生徒の計画による実践を尊重した。閉会式には委員だけでなく活躍した多くの生徒,小さな善行も取り上げてみんなでほめたたえた。いままであまり目立たないできた生徒も,それぞれに役割の中でよく活躍し,初めてみんなにたたえられるという経験をした。その後は自信を持ち,学習活動でも積極的な姿が見られるようになった。また,教育相談では,よいところを気づかせ自信を持たせる指導援助を続けてきた。
B男は,暗い雰囲気の生徒だが,比較的にこやかに相談を受けるようになり,以前よりも級友とうち解け,授業でも挙手し発表する場面がみられるなどの変容があった。
(4) 実践の考察
1) 学級の変容について
自尊に関する基本的対応をふまえて,理科の授業その他の教育活動の中で指導援助をすすめてきた結果,図IV−14のように「自尊」は高まり,「所属と愛情」「自己理解」なども若干ではあるがプラスに変容した。6つの要点が密接にかかわり相互に高まっていることを示している。
図IV−14 6要点の変容図IV−15は,意識調査における学級全体の図である。ほとんどがプラスに変容している。特に否定的であった質問肢5・6の中味を見ると,5の質問肢では7人が肯定的見方に変わり,6の質問肢では極端に得点が高まった生徒もいる。
図IV−15「自尊」の各質問の変容授業では自尊感情が高まり以前には挙手などあまりなかった生徒に発言が多くみられるようになった。また,他の教育活動でも,宿泊訓練を成功させた充足感が次への意欲や期待となって表れて