研究紀要第93号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第3年次」 -106/117page

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おり,仮説の有効性が認められる。しかし,「自尊」の意識調査を個々に見ていくと,事前より下回った生徒もいくらか出ている。これは,厳しく客観的に自己を見つめた結果の表れと考えられる。

2) 個人の変容について(A男の例)
 A男は各要点とも得点の低い生徒である。教師は意識的に指名し,級友の温かい拍手を受けるよ

6要点の変容
  6要点の変容

    図IV−16 A男    図IV−17 H男

 う配慮してきた。A男は「ペアで相談したり実験したりするのがおもしろくなった。」と感想文に書いているとおり自信を持ち始め,挙手することもなかった生徒であるのに,進んで手を挙げ発表するようになった。「自尊」が高まり,「所属と愛情」,「自己理解」も大きく高まっており3つの要点の関連はもとより,各要点が有機的に結びついていることを感じ取ることができた。

 H男はA男とペアの生徒である。H男は各要点の得点は高かったが,更に5つの要点が高まっている。

 双方ともに高まっていることからペア学習と指導援助のねらいは適切に働いていたと考えられる。

3) 教師自身の変容について

 生徒一人一人の自尊を高める指導援助を実践してきた中で,生徒の内面への指導をもっと積極的にしなければならないことに気づいた。そして,教師のことば一つで授業への取り組みが変わる生徒の敏感な反応に目を向けるようになった。

 生徒一人一人を受け止め,温かな言葉かけをするなど,生徒の心を見つめ感じることができる教師に変わったことを意識するようになった。

 4 「自尊」を高めることに中心を置いた指導援助の実践

(1) 学級の実態について

   高等学校1年
   男子15名 女子25名 計40名

 明るく素直な生徒が多く,和気あいあいとした雰囲気である。しかし,中学時代には,リーダーとなった経験も少なく成績も中位以下だった生徒が多い。

 将来の進路については,現在は約半数の生徒が進学を希望している。しかし,実際の取り組みの面では,積極的な努力は少ないと言える。この背景には自分に自信がなく,自分を高めようとする意欲の低さがあると思われる。

 事前調査の結果でも,「自尊」は他の要点を下回っている。特に次の質問肢では,否定的な答を選んでいる生徒が多かった。

○ そんなに好きでもない人で,その人のいいところを見つけようとしている。 (質問肢6)

○ 私は自分に誇れるものを持っている。                (質問肢14)

 このことから,生徒たちに自己理解を深めさせるとともに,自尊の感情を高めさせることが必要であると考えられる。

(2)実践の視点

 指導援助する教師はこのクラスの担任ではないために,生徒との直接的なかかわりは,担当教科である数学の授業場面が中心となる。

 数学については,基礎学力の不十分な生徒もおり,学力差はかなり大きい。このため授業は,成績の中位以下の生徒に対する配慮が中心となり,成績上位の生徒が伸び切れず,すべての生徒を大切にする授業になっていない面があった。

 多くの生徒は授業において,自分が少しでも理解できない場合,「自分に能力がないから仕方がない」と簡単にあきらめてしまう傾向がある。これは,今までわからなかったことがわかるようになったり,できなかったことができるようになるといった成功体験が少ないことが原因であり,わかりやすい授業を実践し,演習問題を自力で解決


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