研究紀要第93号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第3年次」 -107/117page
できたという経験を与えることが,生徒に自信をつけさせることに直結すると思われる。
このような点から,本学級においては12の基本的対応の中から「自尊」に関する
の二つの内容を取り上げ,意識的な指導援助を図ることが実践の内容として必要であると考えた。
[7] 適切な「認め」によって自己尊重の気持ちを高め,肯定的な「自己像」を確立させる。 [9] 自分自身を大切にすると同時に他者をも尊重する心を育てる。
そして,主に数学の授業の中で「自尊」の欲求を高めるとともに,「所属と愛情」や「将来への向上」を含め総合的に実践していくことにした。
(3) 授業の実践
<数学I> 高次方程式の解法
1) 指導援助のねらい
ア 本時のねらい
高次方程式の因数定理による解法の手順を理解し,高次方程式を解けるようにする。イ 本研究における指導援助のねらい
下記のような指導援助を,生徒とのコミュニケーションを重視しながら行ない,一人一人に存在感や意欲を与える授業を実践する。○ 問題解法の手順を理解しやすいよう配慮し,小集団学習を取り入れる。
○ 自発的な学習を促すため多様な学習課題を与え,問題演習の過程を大切にする,生徒とともに考えていく授業を重視する。
2) 指導の仮説
教師が授業の中で,下記のような指導援助をすることで,生徒は「やればできる」という気持ちになり,学習意欲が高まるであろう。さらに,誇りと自信を持つことができ,自尊感情が育まれるであろう。
ア 小集団学習において,自分の解答や考え方を他者と比較検討するなかで,自分の意見を表明したり他者の考え方を尊重する態度を培う。
イ 問題解法の手順をスモールステップで示し,理解しやすくさせることで,一つ一つの段階において成就感や達成感を味わわせる。
ウ 学力差に応じた学習課題を与え,生徒に自分の学習能力について理解させ,適切な「認め」を与えることで主体的な取り組みを促す。
エ 演習の解答においては,正解だけにとらわれず途中経過を重視することで,間違いの原因に気づかせるようにする。また,完全な理解ができなくても考え方を前向きに評価することで,意欲的な学習活動を促す。
3) 主な指導援助
ア 学習への意欲を高める
導入段階では,生徒に「今日の授業は理解できそうだ。」という印象を与えることに重点をおいた。1時間の授業中,生徒の学習意欲を持続させるためである。まず,生徒に確認しながら前時までの復習を十分に行ない,本時の学習内容が理解できるように基本的事項の復習をした。「この内容さえわかっていれば今日の授業は理解できるよ。」と励まし動機づけをした。
さらに,問題解法の手順をスモールステップで示し,一つ一つの段階を踏んでいけば問題解決までたどり着けることを強調した。生徒は,高次方程式を解くような長い抽象的な問題は苦手であるが,「この手順で一つ一つやっていけば大丈夫だよ。」と言って働きかけたところ,意欲的に授業を聞く姿勢が見られた。
特に成績下位者に対しては,「わからないことは恥ずかしいことではない。周囲の級友に聞くのはむしろ素晴らしいことだ。」と励ましを与え,授業に臨む前向きな姿勢を,肯定的に認めるようにした。
イ 生徒との同士の主体的な学習を促す
(図IV−18 指導過程参照)スモールステップで問題解法の手順を示し,理解の遅い生徒でも,最初の第一段階の達成を目標に取り組ませるようにした。説明は一方的にならないように,コミュニケーションを大切にして一緒に考える授業を心掛けた。
問題演習にあたっては,小集団で学習させ,机間指導に重点をおいた。