研究紀要第93号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第3年次」 -109/117page
ステップで示すことで,学力の低い生徒が「やればできる」という気持ちを持ったからであろう。
同時に,授業に対する集中度も高まり,生徒の感想でも,「授業時間が短く感じられる」という声が聞かれるようになった。
ウ 成績上位者の学力を伸ばす
成績上位者に対し,更に学力を伸ばせるよう応用問題も準備したが,取り組みの状況はあまり熱心でなかった。このことから,授業中の働きかけだけでは不十分であると考えられる。エ 正解が得られなくても積極的に取り組む
誤答に対して肯定的に取り扱かったので,生徒は途中までしかできなくても,また自信がなくても,恥ずかしがらず,自分の考えを他人にきちんと述べることができるような雰囲気が生れた。以前は,正解したかどうか結果だけを気にする生徒が多かったが,どの手順まで正しかったかを生徒自身が考えるようになった。解答の確認においても,どこまで正解だったか検討するような真剣さが感じられた。
5) 他の教育活動における実践
学級全体の相互受容的な人間関係をつくるために,学級担任にも,生徒に対する肯定的な働きかけによって,自己尊重の気持ちを持たせるよう協力していただいた。
授業者としては,生徒とのラポールをつくるために,清掃時間など日常的に言葉かけを多くするようにした。また,学習への取り組みが意欲的でない生徒に対しては数学の個別指導,成績上位者に対しては進路相談としての内容で,気軽に教育相談的な面接を行うようにした。
(4) 実践の考察
1) 学級の変容について
6つの要点のうち,特に「自尊」を高めることを中心に置いた指導援助を,主に数学での授業場面において実践してきた。その結果,全体としては図のように,「自尊」をはじめ6つの要点すべてが高まった。これは,6つの要点が互いに密接なかかわりを持っていることを示している。他に「所属と愛情」「将来への向上」も伸びて
図IV−19 6要点の変容いる。これは,小集団で相互に認め合って学習したこととともに,学級担任がクラス内の相互受容的な雰囲気づくりに配慮した結果であろう。
今までは数学の場合,ちょっとでも間違うとその原因を考えず,正しい解答を丸写しする傾向があった。しかし,他人と解答を比較して,どこが間違えたのか,手順にそって確認し合うようになり,「仮に答が違ってもそのことですべてが否定されるわけではない。」という考え方を生徒自身が身につけていったと思われる。
また,その過程では,自分の考えを小集団の中ではっきり説明する積極的な姿勢が見られ,個々の生徒の自己理解も深まっていった。
2) 個人の変容について(A子,B子の例)
図IV−20 A子の6要点の変容A子は成績は下位ながら,小集団学習にも積極的に取り組み,成績上位のD男や,成績中位のE男に教えてもらいながら楽しく学習するようになった。この結果A子は,6つの要点すべてで向上が見られた。特に「自尊」とともに「自己理解」の伸びが目立つ。これは小集団学習においての他者とのかかわり合いが良い影響をもたらしたためであろう。また,D男,E男の2名も「将来の向