研究紀要第93号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第3年次」 -114/117page
このような成果の根底には,「将来への向上」 についての一連の指導援助の効果があったものと 考えられる。
(4) 実践の考察
事後調査の結果,「将来への向上」を見ると大きな意識の変容が認められた。これは,本授業の実践,並びに一連の諸活動により,自己理解を深め,自尊感情を高めることと関連させながら指導してきたことの成果であると思われる。
また,「将来への向上」が高まったことによって,「自尊」の意識も,将来への志向との関連で高まったものと思われる。
事前調査の結果,低かった質問肢2,3,9はいずれも伸びている。これは,授業で将来希望する職業について取り上げたことにより,生徒の将来への積極的な意識が表れたからであろう。
図IV−25 「将来への向上」の各質問肢の変容また,長所を伸ばしていこうとする意欲にも高まりが見られた。これは,「わたしの特色」や「希望する職業」についての調査などから,職業に対する関心の高まりと,将来の目的意識を持ったことの表れと考えられる。
日常の生活においても,忘れ物や遅刻をする生徒が少なくなり,規範牲が身についてきた。また係活動,部活動など学校生活への積極的な態度がどの生徒にも感じられるようになった。
2) 個人の変容について(N男の例)
図IV−26 N男の6要点の変容N男は,明るく男女を問わず人気があるが,何をするのにも中途半端な行動が目立った。また,学習用具の忘れ物が目立ち,学校生活への目的意識があまり感じられなかった。
そこで,明るく級友に好かれている面を認め,良い面を伸ばすことを常に配慮してきた。一連の指導では,将来への目標(ツアーコンダクター)を持たせ,励ましながら受容的にかかわってきた。これらのことが,6要点すべての向上につながったものと考えられる。中でも,「自尊」感情が高まったことで,今後の「将来への向上」の伸びが期待される。
3) 教師自身の変容について
これまではどちらかというと長所を認めることが少なかったが,良い面を見っけて支持し承認を与えることによって,生徒は自信を持ち,心を開いてくれることに気づいた。個々の生徒が自由に発言できる受容的,許容的な学級づくりを心がけたことが,生徒の規範牲を高め,成長に役に立ったものと思われる。意識調査や「自分の特色」などの調査の結果などを基に,意図的に生徒にかかわったことが効果的であった。教育は,「生徒を理解する」ことが基盤にあるという認識を更に深めることができた。