研究紀要第100号 「国際理解教育におけるソシオドラマの活用」 -090/156page
最初の指示を出してみましょう。まず,みんなを集めてやりますか。それとも,放送か何かで,全校生が廊下に勢揃いするんですか」 担任 「いえ,さすがにそこまではやりません。じゃあ,みんなを集めて指示します。(大きな声で)みんな,集まれ。いいか,これから,掃除をする。中学生になったからには,君たちも無駄話などせず,黙って掃除をやれ。 (留学生の5人に向かって)いいですか。日本では,みんな黙って,余計なおしゃべりなどせず,掃除をします。掃除をすると,どうなりますか,ミロくん」
ミロ 「はい。きれいになります。日本人もスペイン人もきれいずきです」 担任 「じゃあ,みんなの真似をしながらしっかりやるんですよ」 広い教室いっぱいに広がって,思い思いに清掃が始まる。隅の方で,しゃがみこんでおしゃべりをする者,手をぶらぶら動かしているだけの者,担任が来ると急に真面目になる者,その中で,一群の女子生徒たちは,丹念に雑巾を絞り,床をふきがけしている。留学生も,雑巾の使い方を教わりながら見よう見真似で掃除をしようとする。ところが,突然イギリスから来た女子生徒が担任にくってかかる。
ダイアナ 「先生,どうしてこんなことするんですか。イギリスの私の学校では,掃除なんてしません。それは,生徒の仕事ではありません」 担任 「日本では,生徒の仕事です。」 ダイアナ 「では,どうしてせっかくワックスを塗ってある床を水ぶきするんですか。」 担任 「なるほど。では,掃除の仕方については,考えましょう」 ダイアナ 「ではもうひとつ。どうして黙ってやらなくちゃいけないんですか。楽しくやってきれいにするのがどうして悪い
これ,まるで,囚人の労働です」担任 「黙ってやったほうが,仕事の効率があがるということですよ」 ミロ 「いいですか。わたしは諺を思い出しました。ローマでは,ローマ人のごとくせよ,というやっです(笑い)」 ダイアナ 「わたしは,おしゃべりしながら楽しくやりたい」 女子生徒 「先生,あっちの男子を注意してください。さぼってばかりいるんです」 担任 「(素直に)はい。(爆笑)」 担任は,どなりながら跳んでいき,さぼっていた何人かを注意する。帰ってくると,ダイアナはブリジットと掃除をさぼって遊んでいる。担任は,そのことに気付くが,何も言わない。
一方,7,8人の生徒たちは,横に並んで,黙々とそして整然と床のからぶきをしている。その動きはダイナミックで,波のうねりのように芸術的ですらある。
監督 「はい。このくらいにしましょうか。それでは,感想を聞いてみましょう。そちらでは,ずいぶん熱心に掃除してましたねえ」 生徒 「はい。やっぱり,気もちいいですね。一っのことを集中してやるのは」 女子生徒 「おしゃべりは,またできるから,なんかやるときはこの方がいい。きれいになるし」