研究紀要第97号 「福島県における「学力向上」に関する考察」 -019/156page
IV まとめと今後の課題
1 まとめ
センター試験の結果に表れた本県の高校生の学力の現状については,これまで正面きって取り扱うことはまれであった。その理由は,その結果が学力の一部であっても全てではないこと,それを重要視することが知識注入型の学習に逆戻りさせてしまう懸念があるためなどである。
しかし本県の現状は,そのような懸念は懸念として留意しながら,まず,センター試験の結果も学力の成果を測る一つの指標として直視し,謙虚に見つめ直さなければならない状況にあるように考える。
国語がほぼ全国平均レベルにあるのを除けば,数学,英語,5教科総合での「進路実現を可能とする学力」は,相対的に低いレベルにある。文系・理系,男女別等のいずれの場合から見ても低いことは,単に高等学校レベルにとどまらない根本的な対応策が必要なことを示唆している。
今回,実施した「福島県における中学生の学習に対する意識と行動」は,このような本県における学力不振の問題を,中学校段階で分析し,適切な対応策を見いだすための基礎的な資料としようとするものであった。そしてその結果,調査から多くの有益な知見を得ることができたものと考える。
「学習一般」に関する調査では,国語,数学,英語などの教科に対する全体的な関心の低さや,授業への集中度,自主的な学習意欲などの乏しさ,家庭学習(予習,復習,学習時間)への達成不全・不満足感などが明らかにされた。
「国語」では,教科に対する好き・嫌いの分節点が,小学校5年と中学校1年にあること,生徒たちが自分で調べたり発言したりという場面で,一般に消極的なこと,表現(作文)の指導の不足などが明らかにされた。
「数学」では,「いつ数学が嫌いになったか」という調査から,学力不振の原因の一つが小学校中学年に始まる「算数嫌い」であることが,より明確にされた。また,中学校1年生の時点での数学の教科イメージは,普通考えられるよりむしろ明るく,70%前後の生徒が,「楽しい」 「分かりやすい」と答えていることは,注目される。
そして同時に,この1年生の時期に,数学に対する「好き・嫌い」が分かれ,2,3年生になるにつれて,学習意欲も両極化していくことが分かった。
「好き・嫌い」いずれの場合にも,「授業」とその内容が大きな要因を占めていることは,今後,数学の学力向上を図っていく上できわめて示唆的なことと言えよう。
「英語」においても,一年生の時期が,この教科に対する「好き・嫌い」の分節点となっている。この時期の指導の善し悪しが,その後の学習に大きな影響力を持っていることは,十分に認識される必要がある。
また,英語の発音や,英作文に対して,抵抗感や苦手意識が強いのはやむを得ないことであると考えられるが,国際化の進んだ時代での必要性や有用性への意識は高い。「英語力をつけたい」という意欲も高いことは,注目すべきであろう。
調査の全体を通して,学年別に見ると,ほとんどの項目で,2年生の落ち込みが目立つ。1年生からは,調査のはしばしから,新しい学習環境,新しい教科に対する清新な意欲が感じられるのであるが,2年生では,むしろ意欲の乏しさが表にでているように感じられるのである。
一例を挙げると,平均家庭学習時間は,3学年を通して1年生が最も多く,1時間47分であるが,2年生では,1時間23分と減少してしまう。そして,これは3年生になっても1時間37分であり,1年生の時間まで回復されることはないのである。
また,調査者の学力達成度を3段階に区分して,達成度別に,学習に対する意織や行動も分析したが,一般的に達成された学力と意識は高い相関を示している。
生徒たちは,「授業」に対して,「楽しく」「おもしろい」「分かりやすい」授業を,心から望んでいる。生徒たちが好んで学習を嫌っているわけでは