研究紀要第99号 「学校不適応児童生徒への援助の在り方に関する研究」 -068/156page
この生徒は,自己表現がなかなかできない生徒という印象でとらえられている生徒である。また,友達とのつきあい方もうまくできず,日ごろ孤立傾向にある生徒である。
また,演習1においては,振り返り用紙で4日間とも質問項目すべてに「あまり」とか「少し」というチェックをしていた生徒であった。しかし,演習2や演習3では,質問項目すべてが「とても」というところへのチェックに変容していた。
また,「今の気持ち調査」という事前事後調査の結果からも,「学級は,あなたにとって居心地がよいと思いますか」や「友達はあなたを信頼してくれていると思いますか」という項目で「少し」から「とても」に変容していた。こうしたことから,不適応意識においても変容が見られ,不適応状態も改善されたのではないかと思われた。
(事前) (事後) ・不適応意識の度合い 5 → 1 ・不適応状態の度合い 6 → 0 2) Y男の変容
この生徒は,日ごろ,孤立傾向にあるのか演習ではひとりぼっちになることがあり,教師が気を配ってそっと言葉かけをしていた生徒である。
特にこの生徒の演習2の振り返り用紙では,自由記述の中に「この演習で,同じ答えの友達がいたのでうれしかった」と書いていた。
また,「今の気持ち調査」という事前事後の変容調査でも,「学級は,あなたにとって居心地がよいと思いますか」や「友達と気軽に話ができますか」という項目で「少し」から「とても」に,また,その他5項目で変容が見られていた。
こうしたことから,下記のように「学校不適応意識・状態調査」の事前事後調査においても,不適応意識や不適応状態が変容したものと思われた。
(事前) (事後) ・不適応意識の度合い 9 → 6 ・不適応状態の度合い 11 → 9 3) S男の変容
この生徒は,演習1の第1日目の感想に「あんまり,本性を見せたくない」と書いていた生徒である。
しかし,演習を行っていくうちにどんどん楽しくなり,振り返り用紙の自由記述には「次はもっと多く選択できるやつをしてみたい」という意欲的な要望を出していた。
その結果,「学校不適応意識・状態調査」の事前事後調査でも「授業が楽しいですか」の項目では,「いいえ」が「とても」に, 「気持ちが沈んだり,気分が悪くなることがありますか」の項目では,「多い」が「いいえ」に変容している。今回の演習を体験したことで自信が持て,行動に変化が起こったことが下記のように不適応状態や意識の軽減につながったもの思われた。
(事前) (事後) ・不適応意識の度合い 7 → 4 ・不適応状態の度合い 4 → 1
まとめ
(1) 集団での自己表出の場を設定した演習1,演習2では,友人の新たな面が発見できたり,友人の考えが理解できたりする機会になった。このことから,本試案は,多様な価値を見いだす援助,集団の中での自己表出が促進される援助になったといえる。
(2) 信頼関係を体験する演習3では,大変興味を持ち楽しく演習がなされており,思いやりの気持ちを育てることができたのと同時に,生徒相互の信頼関係が深まったり,信頼関係の大切さを改めて考える機会になった。このことから,この演習は,人間関係を醸成する援助になったものといえる。
(3) 今回取り上げたこの試案は,実は「グループ・エンカウンター」と言われる手法からの試みである。実践の結果から,「学級の人間関係づくり」において,大きな効果のあることが明らかになった。