研究紀要第99号 「学校不適応児童生徒への援助の在り方に関する研究」 -069/156page
試案−3 (社会生活技能を高める指導援助)
学校不適応状態にある児童生徒が,主体的に適切な対人関係を構築するために必要な能力を身につけることができれば,学級集団への適応状態が好ましい方向へ変容していくと考えられる。そこで本試案では,学級集団の中で,人間関係に関する社会生活技能を高める実践を目的とした。
実践においては,さまざまな社会生活技能の中から,人間関係の基本となる社会生活技能として「あいさつをすること」を取り上げた。事前の「動機づけ」を重視し,生徒自らが課題を設定し,積極的に課題達成に向けて努力していくことを支える援助を主眼とし,社会生活技能の向上を目指した。
1 試案の内容
(1) 事前指導…動機づけと事前調査
1) 動機づけ
実践にあたっては,生徒に対する「動機づけ」が重要である。そこで,生徒配布用資料により,社会生活技能訓練を「ソーシャルトレーニング」としてその必要性や内容について明確にし,実践の動機づけを図る。
[資料3-1]
ソーシャル・トレーニング
○ ソーシャル・トレーニングって何
ソーシャル・トレーニングでは、社会生活をしていく中でかかわっていくさまざまな人と、好ましい人間関係を築くとともに,自分の感じたこと、要求や人にして欲しいことなど、自分のメッセージをもっと上手に相手に伝えられるようになるための方法を学んでいきます。
その結果、あなたは、周囲の人と上手にコミュニケーションが図れるようになるとともに、自分の思うように行動ができるようになり、あなたが人にして欲しいことをお願いしたり、あなたがしたくないことを人から無理にさせられることを避けることができるようになります。
正式には、社会的スキル訓練(Social Skills Training)または社会生活技能訓練などと言い、SSTと略されています。
○ どんな役に立つの
私たちは誰でも、つき合うのが苦手な人や場面があります。トレーニングによってあなたとつき合う相手とのやりとりが、もっと自信を持ってできるようになります。
将来、社会人となったときに、周囲の人と上手に交流できることは、とても大切なことです。中学生の今のうちから、こうした練習をすることで、自信を持って人とつき合っていくことができるようになります。
○ どんなことをトレーニングするの
今回は、最初なので、簡単なことから始めていきます。社会生活の最も基本となるには、「あいさつをすること」です。これは人間関係の第一歩ですが,頭で分かっていても、上手に行動できるかどうかが、ポイントです.達成できそうな目標を立て、チャレンジしてみましょう。
2) 社会生活技能の事前調査
次の目的で,「あいさつ」に関する社会生活技能の実態調査を行う。 [資料3-3参照]
ア 生徒の「あいさつ」に関する社会生活技能の変容を見るための事前調査とする。
イ 各生徒が,「ソーシャルトレーニング」を実践するにあたり,最初の「あいさつ」に関する目標行動を設定するための参考資料とする。 [資料3-2]
(2) 「ソーシャルトレーニング」の実践
1) 実践時間帯
朝の短学活の時間を活用し,短時間でできるような内容(10分程度)で実践する。
2) 実践回数および期間
事前指導を除き,週2回の割合で,延べ4回実践する。
3) 実践手順
ア 各自の目標行動を設定しやすくするため参考資料を配布する。[資料3-2]
イ 各自の目標行動により実践する。
ウ 目標行動が達成されたかどうか振り返り自己評価をする。 [資料3-5,3-6参照]
工 達成された生徒には強化(励まし)を与える。
オ 達成されなかった生徒のために,社会生活技能の高い生徒の「あいさつ行動」を観察させたり(モデリング),小グループ内で実際にやらせたり(ロールプレイング)する。
カ 各自が新しい目標行動を設定する。