研究紀要第99号 「学校不適応児童生徒への援助の在り方に関する研究」 -071/156page
とおりである。
「あいさつ」はそれほど難しい社会生活技能ではないと思われるが,「いつでも誰にでも気軽にあいさつできる」に「毎日そうだ」と回答した生徒の割合は,1/3に過ぎない。このことから, 「あいさつ」という社会生活技能を取り上げ,実践することは必要なことであると考えられる。
特に,「4 あいさつはできるが小さな声でしかできない」「5 あいさつはできるが特定の人としかできない」において,「毎日そうだ」「時々そうだ」と回答した生徒の割合が高くなっている。このことから,一応, 「あいさつ」はできるものの,社会生活技能として円滑に使える状態ではない生徒が多いことがわかる。
3 試案の様子
(1) 日常生活における実践の働きかけ
基本的には,生徒自身が目標行動を設定し実践するものであるが,「あいさつは毎日の生活で意識してやるようにしよう。朝からあいさつし合うと気持ちがいいよね」と毎日の生活の中で実践を促す働きかけをした。
さらに,「ソーシャルトレーニング」の実践においては,「今日は席が遠い人とあいさつをしよう」などと,担任が具体的な課題を与え実践の機会を設けた。このことは,各自が自分の「あいさつ」に関する行動を振り返るうえで,有効な試みであった。
(2) 強化(励まし)
目標行動が達成された何人かの生徒には,全体の前で,「上手にできたようだね」など励ました。
また感想なども聞き,「あいさつされると気持ちがいい」と答えた生徒には,「そうだよね。朝からいい気持ちになると一日中楽しくなっちゃうよね」など,「あいさつ」に取り組む行動を強化するようにした。
全員の生徒にほめる言葉を与えることは難しいため,後で個別に話をする機会を設けたり,記録用紙に担任の感想を朱書きするなど,それぞれの担任が工夫し実践した。 [資料3-4,3-5参照]
(3) ロールプレイングとモデリング
目標行動が達成されなかった生徒のために,担任と生徒による実演(ロールプレイング)を行った。
このことにより,学級の雰囲気も開放的になった。
続いて,社会生活技能の高い生徒にも実演させ,モデリングとした。生徒は照れ臭そうだったが,担任から「うまいもんだ。さすがだね」とほめてもらうとうれしそうだった。和気あいあいとした雰囲気の中で,「あいさつ」に取り組もうとする意欲づけにつながったと思われる。
さらにモデリングから一歩踏みこんで,小グループでのロールプレイングを実践した。目標行動が達成されないと思っている生徒に,「自分からあいさつをする」というロールプレイングをしてもらい,その人の上手な部分をほめ,少しだけアドバイスするようにさせた。
このようなグループ活動は,活発になるのは難しいのではないかとも思われたが,モデリングにより取り組みやすい雰囲気が作られており,担任がそれぞれのグループを個別に指導することで,目的が達成されたと思われる。