研究紀要第99号 「学校不適応児童生徒への援助の在り方に関する研究」 -072/156page

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4 実践の結果

(1) 個人の変容

1) I男の場合

ア I男のプロフィール

 I男は,性格的にはまじめな生徒であったが,身体が小さく気が弱いところがあり集団の中に入っていくのを苦手としていた。

 事前調査でも,学校不適応を示す割合は10点と最も高くA群の中でも際立っていた。

 このような調査の結果から,社会生活技能の向上を目指し行動化を促す本試案は,負担に感じるのではないかと考えられた。

イ 実践での様子

 [資料3-4]の記録用紙からわかるように,最初のI男の目標行動は,多くの生徒が級友との「あいさつ」をイメージする中で,「大人でもあいさつする」となっており,目標行動が高すぎるのではないかと思われた。担任が個別に話を聞いたところ,「同級生には遠慮してしまう」という話であった。

 そこで担任は,「I男君は,先生方には上手にあいさつできるから,同じようにやれば,友達にも大丈夫よ」と励ました。その結果,I男自身も,「この機会に挑戦してみよう」という気持ちになっていった。

 実践での様子を観察すると,「今日は席が離れている人とあいさつしよう」という教師の指示に対して,自分から積極的に動き回っていた。あいさつをしている表情も明るく,大きな声でいきいきと取り組んでいた。

ウ I男の記録用紙から

[資料3-4]
[資料3-4](I男の記録用紙から)

 記録用紙でわかるように,自分の目標行動に対して「A」(達成できた)という自己評価が目立っている。また,「あいさつ」の対象を先輩や大人にも広めるなど, 意欲的に取り組んでいる様子 がうかがえる。

 また,「いろいろな人にあいさつをかわしたら気持ちがよかった」と 自分の行動を肯定的 に感じていたり,「前にはあいさつしてくれなかった人があいさつしてくれた」と, 交友関係の広がり を感じていたりしているようだ。

 担任も,アンダーラインを引いたり,「あいさつが気持ちがよかった」という感想に対して「すばらしいね」とプラスに評価したり,I男を認めるように「友達が多くなったね」と朱書きを入れている。このような担任のかかわりが,I男の変容に好影響を与えたものと思われた。

工 実践による変容

 学校不適応状態は大きく変容していた。事前調査では「学校がいやで休むことがありますか」や「遅刻や早退をしますか」に対して,ともに「多い」と回答していたものが,事後調査では,ともに「いいえ」に変わっていた。この結果,学校不適応を示す割合も10点から3点に大きく減少していた。

 また,学校不適応意識についても,「学校のことを考えると気持ちが沈むことがありますか」に対して,「多い」から「いいえ」に変わるなど,好ましい方向に変容していた。


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