研究紀要第99号 「学校不適応児童生徒への援助の在り方に関する研究」 -076/156page

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 これらのことは,さまざまな社会生活技能の中かにら,「あいさつ」という基本的な相互コミュニケーションの技能を取り上げたことにより,学級内の人間関係の促進された結果と思われる。

 最後に,生徒の主な感想は次のとおりである。

ソーシャルトレーニングの主な感想

・ やっていていい気持ちになった。

・ あいさつによって友達がふえた。

・ あいさつのしかたによって相手への気持ちの伝わり方がかわるのですごいと思った。

・ いろいろな人と話すきっかけができた。

・ いつも話さなかった人とも気軽に話せるようになっていい。

・ 楽しかったのでもっとやりたい。

・ 友達の輪が広がり,交流が深まった。

・ 今までよりあいさつできるようになれた。

 このように,圧倒的に肯定的な感想が目立っ。

 特に,「友人が増えた」「今まで話さなかった人とも話すようになった」などの交友関係の広まりの感想が目につく。

 また,「あいさつをすること」が形式的な範囲にとどまらず,「気持ちがいい」とか「あいさつ」の仕方によって感じ方が変わる」など,感情的なものを含んでいることは注目すべき点である。

(3) 変容のまとめ

 実践としては,形式的な行動面における社会生活技能の向上を図った試案であるが,単に表面的な技能にとどまらず,感情的なものを含んだ交流にまで深まっていることがわかる。したがって,このような実践により,より深い人間関係を構築していけることが推測される。

 このことは,「あいさつ」という行動を生徒が肯定的に受け止めており,そのことで行動化が促されていくという,よい循環になっていることを示している。

 このような感情面での変容は,2週間という短期間ながら,表面に現れてきており,今後,このような実践を継続することにより,「あいさつ」という行動がより活発になり,円滑な人間関係作りに役立ち,学級内での望ましい人間関係が深まっていくと予想される。


まとめ

(1) 本試案は,認知行動療法的アプローチのSST(Socia1 Ski11s Training:社会生活技能訓練)における手順を参考に,一人ひとりの生徒の「社会生活技能の向上を図る」ことにより社会性を高め,学校不適応意識・状態の軽減・解消を目指すものである。

(2) 実践にあたっては,さまざまな社会生活技能の中から,学級の中で実践しやすく,能動的に相手に働きかけをしていく自己表出の行動として,「あいさつ」に関する行動を取り上げた。

 生徒にとっては,「あいさつをする」という社会生活技能は基本的であると同時に,相互の人間関係のべ一スともなるものであり,トレーニングとしての行動目標としては適切であったと思われる。

(3) 実践には生徒も意欲的に取り組み,わずか2週間ではあったが「あいさつ」に関する社会生活技能の向上が認められた。また,行動面だけでなく,「あいさつ」を肯定的に受け止める感情面で,大きく変容していた。この感情面での変容が,今後,長期的にこの実践を行っていくことにより,さらに大きな行動変容へとなっていくことが期待できる。

(4) 本試案の実践では,学級全体で実践に取り組んだため,学級内の相互コミュニケーシヨンを高める結果となり,学級集団の変容にもつながったことは,見逃すことのできない点である。

 また,本試案の実践により,学校不適応意識が大きく軽減している。これは,学校不適応状態の割合の高い生徒ばかりでなく,学校に適応している状態にある生徒も,学級の雰囲気を好ましいものととらえるようになり,すべての生徒にとって有意義な実践であることが明らかとなった。


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