平成7年度 研究紀要 Vol.25 個人研究3 -117/170page

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イオンの学習における授業改善
〜イオンのモデル形成を支援する学習ソフトウェアの開発と活用〜

長期研究員 鈴 木 昭 夫

研究の要旨

 中学校理科(3年)におけるイオンの学習は,実験が比較的容易であり,イオンのモデル形成の学習を通しながら,科学することの楽しさを味わえる単元である。しかし,目に見えない現象を抽象的な概念で説明する学習のため,多くの生徒にとっては理解しにくいものの1つになっている。また,このような内容のため,生徒の発想や思考にそった授業より,教師主導による教え込み型の授業になることが多い。
 本研究においては,これらの問題点の克服を目指し,「イオンのモデル形成過程」を単元構成の柱としながら,@生徒一人一人の発想を生かし,生徒の思考を連続させる学習過程の構成の工夫,A生徒の学習活動を支援する学習ソフトウェアの開発,に取り組んだ。その結果,次のような成果をみることができた。
1.イオンのモデル形成を重視した授業改善の視点を明らかにすることができた。
2.生徒の学習活動を支援する「水溶液を流れる電流イオンモデル」「電気分解(塩酸)シミュレー ション」の2つの学習ソフトウェアの開発を進め,生徒の実態や学習の進め方に応じた活用法につい てまとめることができた。

I 研究の趣旨

 中学校の理科における単元「化学変化とイオンーは,中学校理科の中で化学領域の実質上の最後の単元であり,実験結果をもとに理論的な考察を行い,科学的な思考力を養うのに最も適した単元である。
 中学校指導書理科編(文部省)においては,単元「化学変化とイオン」のねらいとして,「化学変化についての観察・実験を通して,電気分解や中和反応について理解させるとともに,これらの事実をイオンのモデルと関連づけてみる見方や考え方を養う」「電気分解の実験を行い,電極に物質が生成することを見いだすとともに,この実験結果からイオン'の存在を知ること」とある。つまり,科学的な見方・考え方の中でも,「物質の成り立ちや化学変化における微視的な見方・考え方の育成」を特に大切にした単元であることがわかる。
 しかし,山際隆氏らは,中学校教育課程の解説書の中で,電気分解とイオンの扱いについて,次のような配慮点を述べている。(註1)
(1) 実験や観察から得た情報から,生徒自らの手でイオン(電気を帯びた粒子)の存在に気づかせる。
(2) イオンについては帯電粒子であることを扱う程度にとどめ, 電子の授受については扱わない。
(3)イオン記号は, 1価イオンを扱う程度にとどめる。 (H + ,Na + ,Cl - ,OH - )
(4) 電気分解をイオンのモデルで説明することは詳しく考察させない。
 その理由として,中学校理科では「原子の構造を学習していない」「電子配置を学習していない」からと述べている。
 そこで中学校理科の3社の教科書について,この単元の電気分解についての学習内容の取り上げ方について比較すると次の表1のようになる。


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