平成7年度 研究紀要 Vol.25 個人研究5 -137/170page

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即興的表現による「アジアの民族音楽」へのアプローチ
〜フィリピンの民族楽器「トガトン」を使って〜

長期研究員 佐 藤 恵 一

研究の要旨  現在,高等学校「音楽」で指導法の研究を最も必要としている分野は「民族音楽」であることが,昨年度実施した教師を対象とするアンケート調査結果から明らかになった。また,中学校での「民族音楽」の授業は,鑑賞が中心で,表現学習としてはほとんど扱われていないことが,高校生に対するアンケート調査から分かった。
 本研究は,高等学校において生徒が楽しみながら意欲的に表現できる「アジアの民族音楽」の授業の在り方を探ることを目的として,特にフィリピンの民族楽器「トガトン」を使った「即興的表現学習」に視点を当て,次のような方針で授業実践を行った。
1 「民族音楽」は学習指導要領では「鑑賞」教材として取り扱うように位置づけられているが,それに加えて「創作」(音楽づくり)と「表現」(演奏体験)が中心となるよう配慮した。
2 一人一人の個性や発想を出し合うグループ活動を中心に授業を展開した。
 その結果,以下のような成果を上げることができた。
1 「創作」(音楽づくり)と「表現」(演奏体験)による「アジアの民族音楽」の学習は,新鮮な感覚でその楽しさを実感するのに十分有効であった。
2 グループによる「即興的表現学習」の活動は,その中で自分の感じ方を素直に表現することによって,様々なアンサンブルに発展することができた。
3 「即興的表現学習」によって,「創作」(音楽づくり)が生徒にとってより身近なものとなった。

I 研究の趣旨

1 学習指導要領から
 現行の学習指導要領の改訂のねらいの一つに「文化の伝統の尊重と,国際理解の推進」がうたわれている。それを受けて,音楽I・IIの内容B「鑑賞」工では,「民族音楽の種類と特徴」「文化的背景に基づく民族音楽の特徴」が挙げられている。また,その内容の取り扱いでは,「アジア地域の民族音楽を含めて取り扱うよう配慮すること」 1) とあり,これまで取り扱われることが少なかった,この地域の音楽を学習することが,音楽面のみならず国際理解の面でも重要であることが示されている。
 「民族音楽」は上記のように「鑑賞」領域として示されているが,本来音楽活動においては,常に表現と鑑賞は同時に作用し,相互に影響し合いながら成立させているという一体的な構造性をもっている。
 したがって,今回の「民族音楽」の取り組みはその総合性に着目しソ表現活動と鑑賞活動を有機的に結び付けた指導の在り方を追求した。

2 高等学校音楽科教員に対するアンケートから
 昨年度の高等学校教育研究会音楽部会で,音楽の授業の問題点を明らかにするために音楽担当教師にアンケート調査を実施した。
 その中の「現在,教材の開発及び指導法の研究を最も必要としている分野は」の質問で,約60%の教師が「民族音楽」と回答を寄せている。
 その理由として,「教師自身が民族音楽の学習の経験がない」「あまりにも範囲が広く教材化が難しい」


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