平成7年度 研究紀要 Vol.25 個人研究5 -139/170page
III 研究の実際と考察
1 「アジアの民族音楽」を基にした「即興的表現」の考え方
「即興的表現」とは,いわゆる高度な技術を要する「即興演奏」のことを指しているのではなく,人間が本来持っている自由な音楽的衝動による音遊びの感覚から導入し,リズム表現へと発展させ,生徒一人一人の個性や発想を,素直な音楽的感覚で表現させることを意味している。 2)
一言で言うならば,「アジアの民族音楽の諸原理に基づきながら,生徒たちの自身が即興的に音楽を作って表現する」という,つまり「民族音楽」と創造的音楽づくりを結びつけていくことである。
2 フィリピンの民族音楽と「トガトン」を使った音楽の特徴
(1) フィリピンの民族音楽の特徴
七千余りの島々からなるフィリピンは,16〜20世紀にかけてスペインやアメリカ文化の影響を受け,現在ではフィリピンの音楽のほとんどが西洋音楽の影響を受けたものとなっている。
しかし,わずかに残された固有の文化は,ルソン島北部に住む山岳民族やミンダナオ島の音楽に見ることができる。それらは,東南アジアー帯の音楽の原型ともいうべき姿をとどめている。
フィリピンの民族音楽学者であるホセ・マセダはつその原型の特微を次のように挙げている 3) 。
1.リズムパターンの反復とメロディーの使用が中心で,「インターロッキング」が含まれている。
2.多くの楽器が竹でできている。「トガトン」はその一つである。
3.リズムパターンとメロディーのいくつかのタイプの存在。
(2) 「トガトン」を使った音楽の特徴
1.「トガトン」とは
「トガトン」は一般にはスタンピング・チューブと言われる楽器で,フィリピンのルソン島北部の山岳地帯に住んでいるカリンガ族の楽器である。
竹の節のすぐ下から次の節のすぐ上までを切り取ることで比較的簡単に作ることができ,これを石等の固いものの上に落としたり,あるいは下部を小さな石で叩いて音を出す楽器である。
2.「トガトン」を使った音楽の特徴
「トガトン」を使ってのアンサンブルは,「数人がそれぞれのリズムパターンを演奏して一つのメロディーを作る」というタイプの音楽であり,どの音楽においてもカリンガ族はこれを6人で即興的に演奏している。
この「トガトン」は,極めて魅力的な音を持っている。自分一人では一定のリズムパターンの繰り返しを演奏しているのに,それが組み合わさるとメロディーができる不思議さは,体験することによって十分感じることができる。一人一人の発想を生かした「即興的表現」に非常に適した楽器と言える。
(3) 「インターロッキング」とは
「インターロッキング」とは,いくつかのパートが互いに絡み合って一定のリズムができるパターンのことである。これは,東南アジアの音楽の諸原理の一つであり,この地方の「民族音楽」には欠かせないものである。日本では「入れ子」と呼ばれている。
・A|○○×○|××○×|
・B|××○×|○○×○|
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・C|○○○○|○○○○|