研究紀要第107号 「基礎学力向上のための情意面の活性化」 -045/175page

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項目6を除いた9項目で事後が低くなっているのは,教師の支援にたよらないで自発的に学習しようとする傾向がみられるようになったためと思われる。

4 まとめ

(1) 発問の工夫,「声かけ」の継続,グループ学習,思考の場と時間の確保,などの方策は,生徒の,学習に対する関心,意欲を持続させ,思考活動を活発にし,成績の向上にもつながった。

(2) 科学的思考を事象認識の段階という視点でとらえたことは,生徒の思考の様子を把握するのに,また,思考活動を活発にするための教師の指導を明確にするのに役立った。

VI 研究の考察

児童・生徒が学習をするとき,自分がめざす目標の達成に向けて教師に援助を求める傾向を支援要求傾向と名付け,自己評価により把握した。今回の実践では事前に支援要求傾向をつかみ,児童・生徒の期待に配慮した方策を考え,グループ別にまた,個別にも支援を行った。この結果,支援要求傾向は一般に低くなる傾向を示した。このことは,適切な助言や援助を受けた結果,自らの力で課題解決に取り組むことができるようになり,教師に援助を求める場面が少なくなったためといえる。児童・生徒の支援要求傾向をとらえたら,その後の一人一人の指導に生かしていくことが大切である。

各実践で行った情意面を活性化させる方策は,児童・生徒の自己評価に基づいたデータが示す通り,関心,意欲を高め,持続させるのに効果があった。思考を要する授業を児童・生徒はとかく嫌う傾向にあるが,今回の実践のように,関心,意欲を持続させ,考える目的や内容,考えることの必要性を感じさせるような方策を講じ考える時間を確保してやれば,自分から進んで考えようとすることがわかった。本研究では,科学的思考を事象認識の段階という視点からとらえたが,このことは児童・生徒にとっては,考えることの目的や必要性を感じさせるのに,教師にとっては,思考させる内容や指導・支援の方法を明確にするのに役立った。

どの実践においても,関心,意欲の自己評価とテスト成績との間には相関がみられた。このことから,情意面を活性化させ思考を促すこれらの方策は,知識・理解,技能の獲得に有効であったといえる。基礎学力向上のためには,成績が中位・下位の児童・生徒には意欲を高め持続させる方策を,成績が上位の児童・生徒には新たな課題を与えるなど,より関心,意欲を高める方策を講じることが必要である。

本研究では児童・生徒の情意面の測定を自己評価法によって行った。自己評価は自ら学習状況を確認し,調整していく力を育成する上で大切なことと考える。また,それによって,さらに深い追究への意欲が芽生えることが期待できる。児童・生徒が自分自身の状況を自己評価し自覚することによって,自分の行動や態度の方向を知るということば,生涯教育の視点からも大切なことである。自己を評価する力をつけるには学習活動の中での訓練が必要である。評価の観点や評価基準を明確に示し,自己評価する機会を児童・生徒の学習活動の中に積極的に取り入れていくことが求められる。

今回の実践のような授業の進め方は,いつも必要であるというのではなく,思考活動をさせるのにふさわしい単元や題材で行えばよいと考える。観察・実験,実習などは,極めてよい機会である。単元の内容によっては教師主導で教えなければならない場合もある。教材や指導法の成果は,児童・生徒一人一人をよく理解し,児童・生徒の期待に応える適切な支援を行うことによってはじめて現れる。支援というと間接的にかかわるという印象があるが,教師自身の学ぶ姿勢,授業に対する熱意,児童・生徒を育てようとする心など,教師の情意面と直接的に深くかかわっている。これからの授業において教師の果たす役割は以前にも増して大きいといえよう。


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